こんな日に死ねたらいいな自転車を漕いですべてを追い越してゆけ
君のことぜんぶ平気になりたくてセーラー服を着て立っている
泣いている時と似ている心臓のリズムで僕を否定してくれ
何もかも好きだと言った(身長も靴のサイズも夕日も君も)
変態になれたらなにか特別な人になれると信じて飲んだ
まやかしの憧れだけで生きていくような君から借りた小説
甘いもの食べていいのは一日にひとつだけだと舐める唇
ぺしゃんこに焼けたケーキをまずいって言って食べてた君は愚かだ
恋人がほしいと書いた二日後に会ったお前の睫毛短い
君からはわたしのつむじ二個あると分かってたのになぜ言わないの
リプトンのミルクティー飲む紙パック床に積んでくエバーグリーン
君の部屋なのに居場所がないんだね美術品だけ浮いて見えるね
京阪の電車の揺れは僕たちを眠りに誘うささやかな毒
君はもうわたしの肩に寄りかかることですべてを台無しにする
図録には載ることのないあの絵画燃ゆフランソア喫茶室にて
絵は低い位置に飾っちゃダメだよと君に伝えたこともあったね
Amazonのダンボール箱見るだけで膨れるような腹がよかった
目覚ましになるようなこといま君がひとりぼっちで焚いたストロボ
一日の終わりに見てたテレビでは僕の星座が十二位でした
コンタクト外した瞳ふやけてるそれでも君のことは分かるよ
哲学の話がしたい深夜にはふさわしいこと災いのこと
珍しくさみしいねって君に言うための前歯が乾く気がした
グラビアのアイドルたちが僕を見て舌打ちしたら少し嬉しい
簡単な感情だけが正しいと言ってた君の笑い皺です
いつ見てもこの天井はシミがある豆電球は大袈裟につく
ぶれないでいるってことが本当に素晴らしいのか君は無視した
特別なことをそうとは思わないように練習ジャムは赤色
君は好きらしいけどあの古着屋のTシャツはもう捨ててください
抱きしめた温度はまるで火のように僕の胸まで灯して逝った
無理やりに君がわたしに触れたから指輪した手で殴ってやった
シナリオがある程度だけ決められたゲームをしてる聴け「運命」を
この漫画おもしろいって言う君の顔に似ているキャラが死んだね
鴨川で砂漠で月でシチリアで別れた僕ら電話帳消す
ひとりでに刺さったナイフ抜くまいか抜くべきか君迷って泣くな
「この街は僕のもの」って歌ってたバンドのドラムいつも別人
カフェラテを飲める舌では君のこと甘やかしたりできなかったな
僕たちのエモーショナルは気にしない割と勝手にあいつらは散る
身勝手なことに意味など見出してこないで君は人間でしょう
本当に吹雪みたいだ貸した本返さなくてもいいよ売ってよ
<表紙とか帯やページが折れていてうちの店では買い取れません>
BOOK・OFF出てすぐそこのゴミ箱に本を捨てたよ君を許すよ
封筒は開けずに破くことにした 思い出せない?忘れられない?
最後まで読まないままの詩集にも価値はあるよと君は言ってた
果てしないあの河川敷 菜の花は咲いていたのか思い出せない
もしここがわたしと君の世界なら消失点に来て今すぐに
桜って僕らのために咲くんだと思ってたけどそうでもないな
春がなぜ最高かって冬じゃないからだと走る君よさらばだ!
篠原あいり
派手歌人 / 京都在住の獅子座の女 / 石言葉はたわむれ / 別名義の処女歌集: 『インストールの姉』 amazon.co.jp/dp/B07FMZ85RQ/ / 連絡先:matsugemoyasu♡ gmail.com