もう何度言っただろうか。
なのに目の前のスマートスピーカーとやらは全く反応しない。
割と大声も出している。
対人だったらハラスメントになるくらいに言っている。
両隣の部屋の壁が薄いので苦情が来ないか心配だ。
さっきも物音がした。
もしかしたら私の声に苛立っているのかもしれない。
設定は上手くいってるはずなのになぜ反応しないのだろう。
もう一回だけ言ってみよう。
家主が帰ってくるまであと約10分。
それまでにデータを盗み出さなければならない。
しかし肝心のノートパソコンが見つからない。
引き戸を開け、書斎に入る。
ひとつひとつ書斎の引き出しを開けていく。
1番下の引き出しの奥に銀色のが見えた。これだ!
「しめてくれ!」
俺が手に取ろうとしたその瞬間書斎に置いてあったスマートスピーカーがなぜか反応し、開けていた引き出しが一斉に閉まり、右手が挟まった。
あまりの痛みに叫びそうになった。しかし私もプロだ。
涙目で「にゃーん」と声を漏らしてどうにかがまんした。
強烈な痛みを堪えようとすると猫みたいな声が出ることに我ながらびっくりしたが、今はそれどころじゃない。
引き出しを開けパソコンを取り出し起動させる。
パスワードはすでに入手していた。
データを移し終わるまであと3分。
赤黒く腫れ始めた右手を冷やそうと思い、部屋を出ようとしたその時、またスマートスピーカーが反応した。
「しめてくれ!」
部屋の引き戸が勢いよく閉まり、思い切り顔を挟んだ。
目の前に星が散った。故郷の夜空を思い出した。
もしかして、全て見られているのか……?
だとしたら一刻も早く逃げなければ。
ノートパソコンごと持っていくしかない。
ノートパソコンを開けたまま左手で持ち、急いで玄関へ向かう廊下のドアを抜けようとした時、またスマートスピーカーが反応した。
「しめてくれ!」
ドアが勢いよく閉まり、右脚を挟んだ。
どこかで閉まるんだろうなとは思っていた。
だけどその後にまさかノートパソコンが閉まるとは。
右脚と左手を挟み、いよいよ身動きができなくなった。
この家にこんな罠があるとは。
玄関の鍵の開く音が鳴る。
俺は、終わった。
それまでにデータを盗み出さなければならない。
しかし肝心のノートパソコンが見つからない。
引き戸を開け、書斎に入る。
ひとつひとつ書斎の引き出しを開けていく。
1番下の引き出しの奥に銀色のが見えた。これだ!
「しめてくれ!」
俺が手に取ろうとしたその瞬間書斎に置いてあったスマートスピーカーがなぜか反応し、開けていた引き出しが一斉に閉まり、右手が挟まった。
あまりの痛みに叫びそうになった。しかし私もプロだ。
涙目で「にゃーん」と声を漏らしてどうにかがまんした。
強烈な痛みを堪えようとすると猫みたいな声が出ることに我ながらびっくりしたが、今はそれどころじゃない。
引き出しを開けパソコンを取り出し起動させる。
パスワードはすでに入手していた。
データを移し終わるまであと3分。
赤黒く腫れ始めた右手を冷やそうと思い、部屋を出ようとしたその時、またスマートスピーカーが反応した。
「しめてくれ!」
部屋の引き戸が勢いよく閉まり、思い切り顔を挟んだ。
目の前に星が散った。故郷の夜空を思い出した。
もしかして、全て見られているのか……?
だとしたら一刻も早く逃げなければ。
ノートパソコンごと持っていくしかない。
ノートパソコンを開けたまま左手で持ち、急いで玄関へ向かう廊下のドアを抜けようとした時、またスマートスピーカーが反応した。
「しめてくれ!」
ドアが勢いよく閉まり、右脚を挟んだ。
どこかで閉まるんだろうなとは思っていた。
だけどその後にまさかノートパソコンが閉まるとは。
右脚と左手を挟み、いよいよ身動きができなくなった。
この家にこんな罠があるとは。
玄関の鍵の開く音が鳴る。
俺は、終わった。
恋人から別れ話を切り出された。
しかし私はそれを受け入れられなかった。
互いの勤務時間が違うことからすれ違いが生まれる。
だとしても乗り切れると思っていた。
でも、向こうは乗り切れないと思ったらしい。
実際、ふたりでいる時の会話はほとんどなくなっていた。
コーヒーを飲みながら、その日あったことを話す。
他愛のない時間かもしれないだけど、とても大切な時間だった。
恋人は「出て行く」と言い、立ち上がった。
もう間に合わないのか。
本当は今すぐにでも抱きしめたい。
だけど体が動かない。
もしも魔法が使えたら、恋人を引き止めることができたら。
恋人が廊下のドアに手をかけたその時、どこかから声がした。
「しめてくれ!」
その声と同時にドアが閉まり恋人が悲鳴をあげた。
一瞬何が起こったのかわからなかったが、どうやらスマートスピーカーが誤作動を起こしたらしい。
恋人を介抱していると、次々と開いていた引き出しやガスの元栓が閉まっていく。
開いていたはずの玄関の鍵も閉まった。
一体どういうことなんだろうか。
それでも恋人は出ていこうとする。
しかし私はそれを受け入れられなかった。
互いの勤務時間が違うことからすれ違いが生まれる。
だとしても乗り切れると思っていた。
でも、向こうは乗り切れないと思ったらしい。
実際、ふたりでいる時の会話はほとんどなくなっていた。
コーヒーを飲みながら、その日あったことを話す。
他愛のない時間かもしれないだけど、とても大切な時間だった。
恋人は「出て行く」と言い、立ち上がった。
もう間に合わないのか。
本当は今すぐにでも抱きしめたい。
だけど体が動かない。
もしも魔法が使えたら、恋人を引き止めることができたら。
恋人が廊下のドアに手をかけたその時、どこかから声がした。
「しめてくれ!」
その声と同時にドアが閉まり恋人が悲鳴をあげた。
一瞬何が起こったのかわからなかったが、どうやらスマートスピーカーが誤作動を起こしたらしい。
恋人を介抱していると、次々と開いていた引き出しやガスの元栓が閉まっていく。
開いていたはずの玄関の鍵も閉まった。
一体どういうことなんだろうか。
それでも恋人は出ていこうとする。
「しめてくれ!」
玄関前のドアは高速で閉まっていく。
あまりに危なかったので、恋人に部屋に残るように言った。
もしかしたら何か神様のようなものが、まだ二人で一緒にいるように言っているのかもしれない。
現にペット厳禁のアパートでどこかから「にゃーん」と聞こえた。
ふたりでいつか飼いたかった猫の声だ。
内緒で飼っているどこかの猫ちゃんも祝福してくれているのだ。
目の前で閉まっていくドアを見つめて恋人も半ば何かを悟ったような顔だった。
とりあえずふたりでリビングの食卓に座った。
今起こったことについて話しているうちにふたりとも笑い始めていた。
まだ付き合い始めたばかりの頃を思い出すような愛おしい時間だった。
恋人が「コーヒーを淹れるよ」と言い、湯沸かしポットの蓋を開けた。
その瞬間声がした。
「しめてくれ!」
湯沸かしポットの蓋が恋人の手を噛むように勢いよく閉まった。