Web ZINE『吹けよ春風』

Web ZINE『吹けよ春風』と申します🌸

サスティナブル・オタク・ライフ(森山流)

 社会人を15年ほどやっている。双極性障害の患者としての歴史はもう少し長く、17年を越える。オタクであることについてはいつからなのか自覚がない。物心ついた時には、父からコレクションしている映画スーパーマンシリーズ(初代)を見せられ、サンダーバードの1号とそのパイロットである長男スコット・トレーシーのファンをやっていたので、そのあたりからもうだめなのかもしれない。1990年代のゴジラシリーズは、たぶん自分が観たかっただけの父がわざわざおれと妹を映画館に連れて行ってくれたので、ゴジラvsキングギドラ(1991)、ゴジラvsモスラ(1992)、ゴジラvsメカゴジラ(1993)を中心に劇場で体験しており、映画(極度に特撮とヒーローものに偏っている)っていいな~~という思いはこのへんで養われたのだろう。
 しかし5歳の幼稚園児とかだった当時のおれならともかく、現在のおれにはそれほど遊ぶ時間はない。36歳の研究職で家庭がある。くわえて持病のために常に心身が扱いやすい状態であるわけではない。天候や季節や業務の忙しさなどで体調が毎日変わる。それでもオタクをやるのにどうしているのかという話をしようかと思う。
 平日は4日間仕事に行っている。朝は8時に目覚ましが鳴るのを叩き切ってベランダへの掃き出し窓のカーテンを開けてガンガン朝日を浴びる。人間の体内時計は1日を25時間くらいだと思っているので太陽を見て毎日リセットしたほうがよいのだそうだ。洗濯機を回して干してから会社へ行く。
 会社へ着くまでにはなんだかんだ徒歩の時間が40分くらいある。以前はチャリに乗っていたが、おれの住む街は上海もかくやという自転車保有率で、駅周囲の契約駐輪場が毎春500人待ちになっていて置くところに難儀したのでやめた。朝歩くと元気が出て良いし、足腰が強くなって体力がつき、結果としてオタクをやる心身の余裕の確保につながる。
 会社ではめちゃくちゃでかい弁当を食う。弁当は自分のも配偶者のもまったく同じ内容で、フードマンの600mlの色違いに詰めている。縦向きに持っても汁が漏れないパッキン付きの弁当箱だ。前の晩に作っておいて持ってくるが、温めるとかそういうしゃれた設備はないのでそのままバリバリ食っている。昼にたくさん食うと前後に余計な間食をしたり、空腹で頭がぼーっとするとかイライラするとかいうことがなくなるので、集中して仕事ができて早く終わる。血糖値を何度も上げ下げしなくて済むのも良い。弁当自体は作っても大して安くはないが、菓子とかヘルシーなメニューとかをチミチミ買うと地味に金がかかるので、これをでかい弁当で解消する。本とか仮面ライダー第2号の変身ベルトとか小島秀夫のフィギュアとかを買うためには、日頃の小さな節約が効くので頑張っている。
 帰りながらスーパーで材料を買って、家に着いたらばんめしを作る。これはその日安かった野菜を見て毎日適当に決めている。何がなんでも今日はローストビーフが食いたい、とかたく決意しているような時も年に1回くらいはあるが、基本的に自分で作ってあればなんでもうまいという大雑把な気質なので、あり物で良い。とりあえず野菜はたくさん食うようにしている。食ったら台所仕事ついでに弁当を支度しつつ皿や鍋釜を洗って片付ける。そこから1〜2時間ほどが趣味の時間になる。体力が尽きている場合はばんめしの前後に1時間くらい寝て、その日の遊び時間はなし。変な脳波が出る睡眠障害があるとかで、もともと常に人よりは眠く、眠気が出たらどうにもならない体質だから、ここは割り切っている。
 やりたいことはいろいろある。本を読んだり、小説を書いたり、イラストを練習したり、本屋さんでゆっくり新刊を見たり、古本屋でこの間間違って売ってしまった絶版本である白水社エクス・リブリスのジーザス・サンとかをネチネチ探したり、図書館で資料(銃火器とか近接格闘戦、スパイのなり方についての本など)や普段ぜんぜん馴染みのない分野(自己啓発書とか)の本を借りたり、映画館で映画をあれこれ見たり、ストリーミングで昔の映画やドラマを見たり、録画した深夜アニメを見たり、買ったけどあまり遊べていないCyberpunk2077をやったり、攻略サイトを見まくってるのになお死に続けながら初代メタルギアをやったり、リングフィットで鍛えてドラゴをボコボコに叩きのめしたりしたい。毎日そんなに時間はないのでどれもちょっとずつ手をつけてはやめての繰り返しで、鎌倉殿はまだキャラがいっぱい生きてる段階で積んでいるし、わざわざツタヤに出張ってレンタルした北野武映画は見ないまま返却したし、借りるだけ借りて気が済んで2週間経った資料本も多い。映画もシン・仮面ライダーばかり見ているからスピルバーグとかどんどん見逃している。
 それでも22時までには風呂に入って22時半には絶対に寝る。遅くて23時、睡眠時間は9時間死守だ。風呂は湯船に浸かって10分測っている。なんとなくそのくらいが丁度いいような気がする。土日など暇な時はスーパー銭湯式の温泉施設に行って、風呂に飽きるまで入って、休憩室で本を読んでごろごろするのもよくやるが、風呂はスマホとか持ち込めなくて邪念が入らないのが良いと思う。自宅でも風呂はなにか見たり聞いたりはしないで無に集中するようにしている。
 週末は自由にオタクっぽいことをするよりは、配偶者と過ごす時間に使うことのほうが多い。おれの家はおれが持病をもちすぎていてこれ以上家族の人数を増やすことができないが、とりあえず2人で出かけるのが双方結構楽しいので助かっている。ゲームをする場合はそれぞれのXBoxとSwitchとでテレビの奪い合いになる。2人で対戦や協力プレイをするようなソフトは持っていないのでしない。映画やドラマやアニメの趣味もあまり被らないが、岸辺露伴ストーンオーシャンとチキップダンサーズだけは居間で並んで見た。家庭があるとなかなか単独プレイのオタク活動だけに没頭しているわけにもいかないのだ。
 あとはオタク的なアイテムを買う時どうするかという問題がある。どうするかというのは3種類あり、買うときの金をどうするか・買ってから遊ぶ時間や場所をどうするか・保管や維持管理をどうするかということだ。これは基本的に全部ひとつのルールに集約して解決している。「グッズを買っていい推しは一人に絞る」というルールである。おれは結構いろんなものに手出ししているから好きになる人物とかキャラクターが何人にもなるが、グッズというか、こう、物体としてどうにもならぬオタク的なアイテムみたいなものはその時最推しと決めたひとりについてしか買えない決まりにしている。今は一文字隼人(柄本佑)がその地位にあるので、シン・仮面ライダーグッズだけは買っているが、その他の好きな俳優のものとか漫画のキャラのグッズとかは買えない。最推しを入れ替えたくなった場合、前任者のグッズは譲ったり売却したりする。これでできた財力とスペースを新人のために充てる。それで熱中している時でも処分しづらいものとか発売時期がものすごく先のもの(その頃最推しが変わるかもしれない)は買わない癖がついた。薄情な感じもするが、賃貸住宅でそんなに多くのものを保管できないし、おれはなにについてもメンテナンスとか保存とかがとにかく苦手で買った瞬間が楽しさのピークになるため、こういう運用にしている。
 ちなみに、書籍を買うのと映画を見るのに関しては、それ自体が小説やイラストを描くための心の肥料みたいなところがあるため結構惜しみなく出費していいことにしている。好きな映画は2回までなら繰り返し劇場で見る。3回めとなると鑑賞だけで総額が5700円とかになるので見合うかは悩むところで、今もまさに一文字隼人の可動フィギュアが発売されそうなのでそのための資金を貯めたい気持ちと、劇場で見られるうちにもう一回! の気持ちとで葛藤の最中にある。
 36歳にもなってこんな感じの生活をしている。それなりに規律を持った自制的で持続可能性のあるオタク活動を模索していて、できたら死ぬまで小説をグダグダ書いたり映画を何回も見たりしていたい。いつまで視力や聴力がもつのかわからないし、持病がめちゃくちゃ悪くなったり仕事が突然無くなったりする可能性もあるが、生活なくしてオタク活動なしと思う。今日はこれを書いていて23時を少し過ぎてしまったので、そろそろ寝る。また明日。

<プロフィール> 

森山流(もりやま・りゅう)。小説を新人賞に出したり同人雑誌に寄稿したり店に出したりしている。憧れの作家はコーマック・マッカーシー村上龍好きな俳優は加瀬亮高橋一生西島秀俊柄本佑パシフィック・リムと柴犬が好き。はやく大きくなってミッシェル・ガン・エレファントになりたい。

twitter:@moriyamashoten

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