Web ZINE『吹けよ春風』

Web ZINE『吹けよ春風』と申します🌸

ことを投げるなや(インターネットウミウシ)











「こと」は常に空気中を漂っている。
「こと」は人間の目で見ることはできない。
「こと」は人間の声に反応し集まってくる。
「こと」は人間の手のひらが好きだ。
「こと」を怒らせてはいけない。

菌でも粒子でもない「こと」。
霊でも念でもない「こと」。
敵でも味方でもない「こと」。
食用でも観賞用でもない「こと」。
上機嫌でも不機嫌でもない「こと」。

人間が話す場に「こと」はよく現れる。
言葉を聴いて「こと」はその音に合わせて漂う。
言葉の意味を「こと」は知らない。
だけど時折、「こと」は反応する。
その反応は「こと」にとっても人にとっても危険だ。

「こと」が反応するのは人間の言葉のゆれ。
「こと」が好きなのは親切と笑い声。
「こと」が嫌うのは悪意と自己卑下。
「こと」が言葉の中の成分からそれを掬い取る。
「こと」が反応する言葉(以下、記)。

「そんな、私なんか」
「いいよいいよ、私のことは」
「いやいやいや滅相もない」
「やだもう、笑っちゃう」

この全ての言葉に「手」が加わることが多い。
言葉に合わせて「手」が動いてしまう。
横にスイングする「手」。
縦にスイングする「手」。

「そんな(1スイング)、私なんか」
「いいよいいよ(2スイング)、私のことは」
「いやいやいや(3スイング)滅相もない」
「やだもう(1スイング)、笑っちゃう」

このスイングで「こと」は一気に集まってくる。
集まった来た「こと」たちはそこで言葉に反応する。
よくない成分を「こと」が感じると怒り始める。
スイングで弾き飛ばされる「こと」たちが今度は話し相手の方へ向かう。
話し相手もまた「こと」を怒らせてしまうとさらに危険なことになる。
その人間たちの間で「こと」は静かに重たくのしかかっていく。

「こと」はずっと人間たちに言い続ける。
「こと」を投げるなや。

逆によい成分を感じ取ると途端に軽くなる「こと」。
紙風船を投げ合うようにポンポン飛び交う「こと」。
踊るように人間たちの間を舞い続ける「こと」。
だから今、まさに私とあなたの間に漂っている「こと」。



と、いう訳なのだけどどうかな、私の発見は。
私なんかの話に長々と付き合っていただき、申し訳ない。
ですけどね(1小縦スイング)、これは大発見なんですよ。
え、あなたも気づいてた?まさか(1横スイング)。
いやいや(2横スイング)、これは私の発見ですから。
「私も思ってた」って、そんなの、言わなきゃわからんでしょうよ。
ダメダメダメダメ(4大横スイング)、これは絶対に私の発見です。
そんな言い訳、聞きたくもない。やめやめ(2大横スイング)。





なんですか、そんな押し黙って。
あんた、何か言ったらどうなんですか。
どうして喋ろうとしないんです。









あっ













インターネットウミウシ
書き出し小説大賞や文芸ヌーなどで書いている。
相馬光の名前で脚本も書いている。
投げるなや。

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