Web ZINE『吹けよ春風』

Web ZINE『吹けよ春風』と申します🌸

それは天啓、あるいは(レジー・オーウェン)

優柔不断な私は、これまでの人生で巡り合った数々の岐路で立ち往生ばかりをしては渋滞を作り、後ろからせっつかれ焦って選んだものはどれもなんともしっくりこない、という場面を何度も繰り返してきた。
だが時折、それはもう5回とかにも満たない数で、何をすべきかがスパン!とわかる時がある。
まるでそれは天啓のように、雲の切れ間から陽光が差し込み、幾つにも分岐した分かれ道のたったひとつの道のみを照らし、導いてくれるのだ。

先週のお昼時、そのスパン!が訪れた。
ミートソースのスパゲッティだ。
その日は何を食べようか決めていなかった。
前日にお弁当を作っていない、しかも自分で作るほどの時間はない。
こう言う時は大体何を食べるか決めあぐねて、結局コンビニのアプリを開いて割引クーポンが配布されているお弁当やおにぎりなどを買い、うっすらと「私は本当にこれが食べたかったのだろうか?」と思いながらもそもそと食べるのだ。あゝ悲しい。
だけどこの日は違った。私は力強く、ミートソースのスパゲッティを欲していた。
ナポリタンじゃないのだ。ひき肉のミートソースがのった、ちょっと太めの麺で、トマトは助演くらいの、肉主演のミートソースが食べたいのだ。
そうと決まれば午前の仕事も捗る。
だってお昼になればミートソースを食べられるのだから。

正午になると同時に仕事を切り上げ、最寄りのコンビニへと急ぐ。
店内で鳴り響く『ローソンCSほっとステーション』のジングルも私を祝福してくれているように聞こえる。心弾ませてスパゲッティのコーナーに着くと、衝撃的な光景が待ち受けていた。
ミートソース、だけが、ない。
カルボナーラやペペロンチーノやなんかよくわかんない緑色の麺はあるのに、ミートソースの値札がついた所だけすっからかんなのだ。
もしかしたら見間違いかもしれないと思い、一度売り場を離れ、別に欲しくもない栄養ドリンクの棚とかを見たりしてまたスパゲッティの売り場に戻った。
やっぱり、ミートソース、だけが、ない。
ここまできれいにないとなんだか腹が立ってくる。
上の棚にあるスティックサラダみたいな奴もなんか腹が立つし、今日2度目の『ローソンCSほっとステーション』のジングルも腹が立つ。なんだよ、流暢な英語だな。

少し足を伸ばして他の店に行こうかとも思ったが、午後も仕事があるのでそんな時間はない。
この店で解決させなければいけないのだ。
ふと下の段を見てみると奥の方に控えめなスパゲッティが一つだけ隠れていた。
フタに書かれていた文字は、ミートソース。そこにいたのか!
しかし引っ張り出してみるとめちゃくちゃ重い。
もしうっかりオーバースローで投げたら、明日は投げられなくなるくらい重い。
「特盛!」と書かれたでかでかとしたシールが貼られている。これか、これなのか!?と悩む。
だって特盛はなんか違うんだもの。そんなには食べたくないし食べられない。
っていうかもし食べたら確実に満腹で寝てしまう。
こうなったら量もほどほどで極めてミートソースに近い何かしらを選ぶしかない。


棚を色々見ていると、見つけたのはミートドリアとミートソースとホワイトソースの焼きペンネだった。ドリアとペンネかぁ。
スパゲッテイからかなり離れてきている気がする。
差し込んでいた陽光が若干曇っているのがわかる。
ドリアは米だもんなぁ。ペンネの方が近いよなぁ、でもなぜかホワイトソースかかってるんだよなぁ。そんなこんなで悩んでいると、学生さん風の若者がそそくさとやってきてペンネがひとつ売れてしまった。
ペンネは残り1つになってしまった。
売り場を見てみると、お昼休みで混み合い始めている。
そして私がいるコーナーに3人ほど来ようとしている。今決めないと、この店の全てが無くなるかもしれない。
ここはペンネでいくしかない!とペンネをむんずと掴みレジへ向かった。

正直お会計が終わるまで全然しっくりきていなかった。
そして帰り道も全然しっくりこないままペンネを片手に持ちながら歩いた。
家について、レンジの中でぐるぐる回るペンネを見つめる。
すると、ガラス越しになんとも腑に落ちていない私の顔が映った。
これではペンネに失礼だ。笑おう、あの頃みたいに。
きっとこれもベストチョイス。美味しく食べようじゃないないか。
温めが終わるチンという音が鳴った時、本日二度目のスパン!が訪れる。
冷凍食品のコーナーにも、スパゲッテイ、あったじゃないか。
陽光が、私を照らした。

 

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ジーオーウェン
34歳個人事業主。執筆業。好きなものは美味しいビール、横浜DeNAベイスターズ。好きなPOSは富士通。売り場が混んだら内線で呼んでください。