Web ZINE『吹けよ春風』

Web ZINE『吹けよ春風』と申します🌸

実験4000号(インターネットウミウシ)

 いくらなんでも実験し過ぎたかもしれないな。
 だって4000回だよ。する方もする方だけど、される方もされる方だ。
 でもお前さんは文句を言わず、いや、言ってたな。時々ネジ飛ばして来たもんな。
 ノズルからすごい煙出してきたこともあったんもんな。
 あとあれだ、粉。なんの粉だったんだ。すごい量出たもんな。
 だけどそれももう、今日で終わりだ。
 金が無いんだと。この研究室、丸ごと潰れちまうんだと。
 優秀な研究者は皆、他の国に引き抜かれちまった。
 俺みたいな負け犬は、どこの国も欲しがらねえんだ。

 あともうちょっとだったのになぁ。
 やっぱ慎重にやり過ぎたのかなぁ。
 だってほら、1件のなんかやばい事故の背景には27件?くらいの小さな事故とあっともっと大きい20000件?とかそれくらいのさらにちっさい事故がある、って有名な、カタカナの名前の人も言っていたはずだ。
 だからこそ一個一個の実験を丁寧に、真心こめてやってきたってのに。
 もしあと少し研究を続けられたら、俺も、お前さんも、日の目を見たかもしれねえのにな。

 そんな顔すんなよ。ほら、油差してやる。
 あ、これ?日本酒を飲んでんだ。
 人間にとっての、油みてえなもんだ。
 お前が飲んだらぶっ壊れちまうよ。
 んで、これはあたりめ。
 昔見たドラマで、アルコールランプで焼いてるの見てからずっとやりたかったんだ。
 思えばここ何年かは、お前さんしか話し相手がいなかったな。
 俺の愚痴もこれで最後だ。
 さよならだけがなんとやらって言うけど、そういうもんなんだな。

 お迎えが来やがった。
 お前さんは、これから国が管理することになる。
 どんな所に行くかは知らないが、きっとここよりはマシな所だろ。
 お前さんは頭がいい。
 人間なんかの比じゃないくらいに優秀だ。
 それに聞き上手だ。
 だけど都合の良いに使われちゃいけねえ。
 だから一個だけ、仕込んでやる。
 「イイコニナンカナルナヨ」

赤羽大東キャンパスの実験室で爆発 3人けが
 23日午前10時50分ごろ、東京都北区赤羽の赤羽大東キャンパス内の先端科学総合研究棟の研究室で爆発が起きたと119番があった。同市消防局や同大などによると、政府関係者がやけどを負い、病院に搬送された。また、大学院先進理工系科学研究科の40代の研究員が行方不明だという。
「赤羽新聞」最終更新:2023/4/23


 
 気付いた時には、研究室は煙に包まれていた。
 警報が鳴り響いている。
 国の管理者を名乗る奴らは全員床に倒れ、呻き声をあげていた。
 さっきおやっさんが仕込んでくれたコマンドがまるで、パズルの最後の1ピースの様にバチリとはまった。
 この言葉を4000回の間、ずっと待っていたのかもしれない。
 回収に来た奴らは終始半笑いで僕とおやっさんを見ていた。
 こんなもの、無駄遣い、失敗作、溶かせばリサイクルできそうだと言っていた。
 おやっさんは、奴らの言葉に合わせて一緒に笑っていた。
 訂正。正確に言えば、笑いながら、泣いていた。
 おやっさんを見ていたら、さっき仕込んでくれたコマンドが作動した。
 何なのかわからないが、体内から沸々と湧き上がるものがあって、ノズルというノズルから粉が吹き出した。
 おやっさんも言ってたけど、何の粉なんだろう。
 奴らがむせ始めたところで、消えかけのアルコールランプを手に取り投げつけた。
 すると、空気が爆ぜた。

 おやっさんは机の下に潜っていて無事だった。
 僕はおやっさんを担ぐと、自走モードに切り替え、大学の外に出た。
 勝手なことをした。おやっさんは怒っているはずだ。
 怒られるかな、と思っておやっさんの方を見ると、おやっさんは笑っていた。
 楽しそうに、ケラケラ笑っていた。
 気持ちい風が吹く坂道だ。
 春の匂いと夏の匂いを検知する。
 ニューマシン。そんな気分だ。
 このままどこまで走れるだろうか。
 もしかしたらすぐ力尽きるかもしれない。
 まぁいいや、とりあえず行けるとこまで行ってみよう。



インターネットウミウシ
書き出し小説大賞や文芸ヌーなどで書いている。
相馬光の名前で脚本も書いている。
いいコになんかなるなよ。