Web ZINE『吹けよ春風』

Web ZINE『吹けよ春風』と申します🌸

リンダルー(次七)

 

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あれから。

最初の詩写真小品集を作っています。

発刊は5月8日で、予約は近日中に。

これを書くのは風の強い日のこと。

間に合うかなと思いましたが、

ここで試作品をあげてみます。

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7枚のポストカード。

これはわたしの作った印刷見本で、

本物は厚くてしっかりしています。

なかなか奮発。

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詩作の冊子。

表紙は白い厚紙。

縫いとじになります。

CDサイズのジャケットレイアウトは、

元ネタがあります。特定してみてね。

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もくじ。

ひと冬がつまっていて、

なかなか気恥ずかしいです。

あるひとときを縁どったひとの話。

ここから中の紙はわら半紙になります。

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中はこんなような感じ。

モノクロ写真を見る棒的な、

そんな感じで読み飛ばしてもほしい、

さらりと内心を打ち明けてみました。

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見開き1。

「夢みるように眠りたい」とか、

昔すごく影響うけました。余談。

廃病院の白い花。印刷のたのしさ。

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中身2。

写真が入らない頁もあります。

謎な詩作は11篇。

意外と厚い。

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はじめの何部かにおまけがつきます。

今のところ全体で50部くらいの予定。

インディーズのCD-Rのような風情を。

おてやわらかにお願い申しあげます。

のちほど予約サイト他できますが、

お問い合わせはTwitterInstagramで。

お気軽にです。

 

ちなみに5月8日というのは母の日。

発売日なんとなくそうしてもらいました。

「飾ったときうれしくなるものになれば」

ひと冬そうおもいひそひそ過ごしました。

アートワーク他たけなみゆうこさん。

(常日頃のアイコンも)

この場を借りありがとうございます。

 

そしてまた…

 

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次の予定もあったりなかったり。

 

「リンダルー」という冊子、

まもなくできあがりますので、

よければSNS等のぞいてみて下さい。

元気でいてね。

歌って踊るために生きてきたんじゃないかって(天羽尚吾)

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青年が、なぜ生きるのかを問われ、幼いころを思い出し呟いた。

「僕はここで三人でかけっこをするために生まれてきたんじゃないかって…」
進撃の巨人」(諫山創講談社)より

大人気の少年漫画から、こんな言葉を聞けると思わなくて、おなかの底にポチャンと染み渡るような感覚があった。

大義名分がなくてもいいし、なんとない瞬間のために生きていてもいいよね。うん。

じゃあ、僕は?

「僕は、歌って踊るために生まれてきたんじゃないかなって…」
天羽尚吾 心の声より

ねえ、どうして歌ったり、踊ったりするの?

だって、言葉って難しい。感情表現って時に恐ろしい。

リズムや音階、ステップが、言葉や気持ちを装飾することによって、快適なフィルターに、本当に伝えたい思いが、じんわりと溢れる。だから、僕は音楽と物語と生きてきたし、走馬灯はショウアップされたミュージカルだといいな。と思ってる。

だけどあまりに世界は歌って踊らないので、僕は日々こうやってミュージカルしてるよ。ってことを書きます。もっと世界はミュージカルに毒されてくれ。

 

初っ端から全然ミュージカルではないんだけど、APEXというFPSゲームのトレイラーです。BGMとアクション、キャラクターのセリフ、足音や銃撃音が、マッチしてて、すっっごくミュージカル。忙しい人は24秒までだけでも。

次の現場に間に合わねばと走ってる時に、こんな音楽が流れて、手に持っていたコーヒーが落ちかける時にスローモーションになって、すんでのところでキャッチする。みたいなことしたい。いや、嘘ついた。待ち合わせには余裕を持ちたい。

この動画みたいにプレイすることに憧れて初めてみたけど、ゲーム中はまず足音や銃声を聴かなくちゃいけないので、歌ったり踊ったりする暇は無かったよ。FPS音ゲーみたいなの待ってます。

 

映画「RENT」より、結婚式中に喧嘩するカップルの曲です。サイコー、僕も喧嘩するならこんな風に喧嘩したい。ワンショット風に室内を移動するカメラワークも好き(なんかこの動画はピッチが高いのが気になるけど)

RENTは有名ですが、プロット的に…?な展開とか、当時の文化に明るくないとついていけないきらいがあって、"RENT-head"と呼ばれる熱狂的なファンとそうじゃない人達に隔たりを生んでしまっている作品でもあります。でも、お散歩しながら愛を囁きあって、寒いから途中でコートを買っちゃおう。という「I'll cover you」や気になる彼の部屋に行って、恋のキャンドルに火を付けちゃうぞ♡な「Light My Candle」など、割と身近?な曲があって、生活に取り入れやすいんですよ。君の推し曲を探せ!

余談ですが、僕はエンジェルという役をずっと演じたくて、これでもかこれでもかとオーディションを受けては落ち続けているのですが、思えば初めて観た時は麻薬中毒でストリッパーのミミになりたかったので、次にオーディションがあったら、ミミ役を志望しようかと思ってます。受かったらチップを挟んでね。

 

びっくりするほど日本で流行ってない気がする「ミラベルと魔法の家」の"We Don't Talk About Bruno" はじめて行くバーで、常連さんやらマスターが色んな話を聞かせてくれるときとか、僕にとってはこんなフィルターがかかってます。

流石ディズニーなので、音楽と映像のマッチが本当に気持ち良すぎてやばい。多分この歌でミソなのは、みんな「ブルーノのことは話しちゃダメ!」と否定的なことを言っているのに、歌ったり踊ったりしているうちに、ちょっとその状況自体も楽しんできちゃってるところなんですよね。一人で悩んでいるとキツくなっちゃうことでも、文章にしてみたり、話してみたり、共感してもらえたりすると、解決してなくてもちょっと楽になるところってあると思っていて、そんなミュージカル(ディズニー?)の魔法が存分に発揮されてます。ちなみにこちら、ダンサーたちの踊りが動きの元になっているのですが、そのメイキングも超かわいいので良かったら、デザートにでも。

 

マーク・フォースター監督、ジョニー・デップ主演の「ネバーランド」という映画をご存じの方は多いのではないでしょうか。同じ戯曲を原作としたミュージカル「Finding Neverland」です。ハーヴェイ・ワインスタインがプロデューサーをしてしまったので、今後この作品が上演されるか、どんな扱いを受けるかは分からないですが、大好きなミュージカル作品の一つなので、いつかまた観られたらと思っています。

「ピーターパン」の作者ジェームス・マシュー・バリーが主人公で、この歌をメインで歌うグレーのベストのひげの男です。彼は、繊細で少年のような心を持った作家ですが、あと一歩勇気がでなかったり押しが弱かったりする性格に苦悩しているとき、心の中に住むフック船長や海賊に背中を押されて強くあろうと決意するナンバー「Stronger」です。主人公が(自分が生み出したものとはいえ)ヴィランから勇気をもらうという構成も楽しいし、アンサンブルたちのダンスと歌声のシンクロによる力強い表現が気持ちよくて、送信に勇気がいるメールを送る時とかは、この曲に後押ししてもらったりしています。Toxic Masculinityな強さは手に入れないよう問い続けねばだけど。ちなみに、歌ってるのはドラマ「GLEE」のウィル先生を演じたマシュー・モリソンです。歌が上手い。

 

いまいちノれない飲み会とか、もやっとしたときとか、この曲を流すと、途端に今夜の主役になれます。良かったね。

僕のミュージカル原体験は、小学生の頃に観た天狼プロダクション「タンゴ・ロマンティック」という、小説家の栗本薫中島梓)による作品でした。第二次世界大戦上海事変前夜、キャバレーで出逢った決して結ばれない二人…というハードでセクシーな物語だったので、それ以来ずっと「ちょっとおませ」な道を歩んできた気がします。だから、ゴージャスで、外連味たっぷりで、愛憎やミステリーがちりばめられている世界観には、馬に人参のように惹かれちゃう。椎名林檎児玉裕一がタッグを組むと高い打率でミュージカルになるので、大変ありがたい供給です。

あぁ。もうだめだ。

語りたいことはいっぱいあるけど、もう歌いに、踊りに、出掛けたい。

でも、宣伝も……したい。

 

\と、いうことで/

 

僕は現在、ミュージカルを作っております。このZINE主筆の相馬光に脚本を書いてもらい、同じ事務所の海老原恒和に曲を作ってもらい、カフェで行うちいさなミュージカルを制作中です。そんな舞台制作の様子をポッドキャストで配信しておりますので、よかったらお聴きいただけたら嬉しいです。

 

 

〇天羽尚吾
4歳からダンスとピアノを始め、ミステリアスな存在感と鋭い感性を武器に、舞台「弱虫ペダル」岸神小鞠役やドラマ「魔進戦隊キラメイジャー」川田洋二郎役などに出演
https://twitter.com/AmoShogo
https://www.instagram.com/amoshogo/

 

広島のローカル番組では、アンガールズ田中が広島弁を使う(北向ハナウタ)

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縁もゆかりもない広島に移り住んでから1年近くが経った。
 
様々なことが新鮮である。驚くほど広島カープが愛されており、街を歩けば試合日でなくとも真っ赤なユニフォームや帽子をかぶったおじさんとすれ違う。店に入ればおばちゃんから何の脈絡もなく「カープファンですか?」と訊かれる。
想像しているよりかなりの頻度でお好み焼きを食べる。オタフクソースで食べる。鉄板から食べる。
むさし、ちから、徳川、シャレオ、パルコ前で待ち合わせ、云々…。

画像タイトル:広島のローカル番組では、アンガールズ田中が広島弁を使う(北向ハナウタ)

 中国放送RCC)で、『元就。』というテレビ番組が放映されている。
 
MCはともに広島出身であるアンガールズのふたり。毛利元就の家臣である、という設定の田中と山根が、広島の街を歩きながらその街に眠る歴史を紐解き、新たな名所や名物を見つけていく、というロケ番組である。
 
大きな山も谷もないこのローカル番組であるが、それゆえのゆるい空気感が心地よく、肩肘を張らない、広島弁丸出しの田中がこの番組では見られる(この広島弁がビジネス広島弁なのか素のものなのか、筆者には区別がつかないが)。
 
全国放送では“弱々しさ”の奥に並々ならぬバラエティに対しての熱を持ち、いかなるタイミングも逃すまいと鋭い眼光を向けているあの田中が、道ゆく一般人にゆるく絡み、美味しいものを食べたら「うまいでがんす!」と叫び、のびのびと広島弁で番組を進行している。これだけでもなんだか良いものを見れたな、と思う。
 
三原市に新しくできた、免疫力向上を売りにするホテルをロケする回が印象的だった。
 
故・神田川俊郎先生の指導のもと作られたというホテルの食事を紹介するシーン。田中が、木の切り株でできた皿を見て「ワイルドだなぁ」とつぶやくと、隣にいた山根がすぐさまスギちゃんと加山雄三だ、と突っ込んだ。
 
山根って、こんなスピードでこんな的確に突っ込むことができたんだ、「ワイルドだなぁ」からすぐに加山雄三が出てくるなんて!筆者は山根のことを何も知らなかったのだと頭を打ち付けられた気がした。

田中も嬉しそうに乗っかり、「ワイルドだなぁ、僕は木の皿でご飯を食べているときが一番ワイルドなんだ」と重ねる。ホテルの女将そっちのけで、ふたりで楽しそうに盛り上がっている。このフレーズをいたく気に入ったのか田中はこのあとも何度か「ワイルドだなぁ」とつぶやいていた。
 
のびのびしていたのは田中だけじゃなかった、山根も広島で羽根を伸ばしていたんだ。この日のこの放送で、田中が山根とコンビを組んだ理由の一端が垣間見えたように思えた。
 
春の風が、ジャンガジャンガと吹いた。
 
※ぼーっと見ていた番組のため、記事内のセリフはうろ覚えであることをご了承ください。


北向 ハナウタ
会社員/ライター/イラストレータ

 

 

もう止めようぜ。『スパークス・ブラザーズ』が始まってることだし(赤松新)

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4月8日から「スパークス・ブラザーズ」が公開された。

「Sparks」はロン・メイルとラッセル・メイルの兄弟によって結成され、1971年にデビューしたアメリカのバンド。

スパークス・ブラザーズ」はSparksの活動50周年のドキュメンタリー映画

今なお活動してて、2015年には「Franz・Ferdinand」とのコラボアルバムを出しているくらい、精力的に活動しているバンド。

このSparksのドキュメンタリーの監督がエドガー・ライト

「ベイビードライバー」や「ホット・ファズ」、最近なら「ラストナイト・イン・ソーホー」などの監督さん。

デビューが1971年ということで、2022年の現在は芸歴51年。

同期は上沼恵美子さんや研ナオコさん、泉谷しげるさんや欧陽菲菲さん。

たけしさんより少し上だから、会ったら「おう、たけし」って呼び捨てに出来る芸歴。

ユーミンよりは1年先輩で、RCサクセションより1年後輩。

そう考えるとユーミンとかRCサクセション、泉谷さんも凄いけど……。

 

僕はこの「Sparks」に対してかなり、というかもの凄く思い入れがあって。

気持ち悪い表現をすると、初恋の人をいつまで経っても忘れない、みたいな。

可愛い表現をすると、卵から孵った雛が初めて見たモノを親と思ってどこまでもついていく、みたいな。

怖い表現をすると、自分の子供が急に「前世は漁師をやっていた……」って言い出す、みたいな。

とにかく今の自分を形成している土台にあるようなバンドって感じで。

なので今回は僕とSparksの出会いを語らせていただきます。

趣味全開でお届けするので、よく知らないバンドやアーティストが出て来たらググってみてください。

それをキッカケに好きになってくれたら超嬉しいし、どこかでお会いした時に「紹介してくれてありがとうございました」と言われたら、そのまま叙々苑で焼肉を奢ってしまいそうなくらい浮かれます。

 

【俺、Sparksに出会う】

 

僕、高校の時にずっと布袋寅泰さんのラジオを聴いてたんです。

まぁこの布袋さんのラジオを聴くキッカケは「赤松・ミーツ・BOØWY」の回にでも。

それだけでかなりの分量になってしまいますので……。

とにかく、この布袋寅泰さんの「ミュージック・スクエア」はNHKFMで毎週木曜の21時から22時45分という番組。

当時、家にあったコンポなんて予約録画とか出来ないから、始まると同時に録画ボタンを押すっていう超アナログスタイル。

時代的に「カセットテープ」ですから。「ハイポジ」とか出てた時代。

その「ミュージック・スクエア」は、基本、洋楽中心。

「David・Bowie」や「Elvis・Costello」とかも流れるけど、とにかく知らないモノが多かった。

「Sons・Of・Freedom」とか「Sigue・Sigue Sputnik」とか。

今でも「それ誰が知ってんの?」っていうバンドだらけ。

ちなみに、東京に来たばっかりの時にロック・バーに連れて行ってもらって。

お店にあるCDをリクエスト出来るっていうバー。

そこで「Sigue・Sigue Sputnik」があってリクエストしたら、店主に「長い事やってるけど、これをリクエストされたの初めてだよ」と言われたのは、なんか妙に嬉しかった。

まぁとにかく、そんな感じの洋楽がガンガンかかるラジオで、ある時「Sparks特集」をやってくれたの。

1時間45分、丸々Sparks。後にも先にも日本ではないんじゃないかな?Sparksを特集した番組。

田舎の高校生が、そこで初めて「Sparks」に触れるわけですよ

もうね、そのPOPセンスに完全に度肝を抜かれてノックアウト。

どんな音楽って言えばいいんだろう?

イメージだけど「QueenとディズニーのサントラとBugglesをコトコト煮込んだモノに、XTCと中期Beatlesのソース。そしてT・REXとDavid・Bowieの付け合わせも添えて」的な一皿が「Sparks」。

ロックでグラムでニューウェィブで、ダンサフル。オペラっぽい歌い方もあるけどあっさりしてて……う~ん、伝わるかな……?

とにかく来る日も来る日もこのラジオを録音したテープを聴きまくった。

比喩でもなんでもなく、テープが伸びるまで。後半の頃は変に間延びしてたし。

 

【俺は買うぞ!SparksのCDを!】

 

それで「よし!CDを買おう!」って決意するわけです。

なぜそんな決意が必要かって話ですよね?

CDくらい、すぐに買ったらいいじゃないかって。

でも、それまで自分でCDを買った事が無かったの。全部人からのダビング。

それに、僕の当時の小遣いが月5000円だったし……。

高校3年間だよ。部活もやっててバイトも出来ないし、許してくれない。

サッカー部でスパイクとかソックスなど諸々もそれで賄えっていうんです。

無茶でしょ?

「昼飯は弁当があるし、間食とか部活終わりで買い食いしなければいい」って。

付き合があるわけよ、高校生には高校生なりに。

そして当時やってた、「親父のパンツを3枚洗うと100円」という仕事。

うちの親父は何故かパンツにウ〇コが付いてたんです。

「これ、なんで?」って聞いたら「痔だから」って言ってたけど。

あれ、嘘だと思うんだよな。痔の人ってそうなるの?

まぁとにかくそのウ〇コが付いたパンツがお湯の入ったバケツに入ってるんです。

それを僕が手で洗って洗濯機に入れるっていう仕事。それが3枚で100円……。

人類史史上、下から数えた方が早いような劣悪な労働賃金で働かされていて。

その反動で19歳くらいの頃、家の金をこっそり盗むようになるんですが……。

財布からお金が少なくなっている母親が聞いて来るわけ。

「あんた、もしかして財布からお金取った?」って。

僕は「ヤバイ!」と思ったら、親父が「こいつはバカだが、そんな事をするような子じゃない!」って信じてるんですよ、僕の事。

僕は「ここだ!」と、「そうだ!それはあんまりだ!」と泣き真似で事なきを得ました。

母親は「そうだよね……ごめん」と謝られて、少し心が痛んだな。

結局、会社の「斎藤さん」という人を疑ってたし。

その時からかな?「あ、お芝居とかの道もいいな」って思ったの。

まぁそれはまた「ごめんね、父さん母さん」の回にでも。

 

とにかくお金を貯めて買いにいくの。

確か、1992年の春くらいだったかな。

今でこそ「Amazon」だなんだってありますが、当時は街にあるCD・レコードショップに行くしかない。いや、下北沢にあるようなレコード屋じゃないよ。

おばちゃんやおじちゃんが演歌とかと一緒に売ってるようなお店ね。

タワーレコードやHMVもなかったから。

そこに行ったら洋楽とかもアイウエオ順で並んでるんだけど、「L.A.GUNS」という「Guns‘N Roses」の前身バンドが、何故か「ラ行」に入れられているようなお店。

今思ったら、「ラ・ガンズ」ってフランス語とでも思ったのかな?

洋楽に対してそんなくらいの認識しかない、おばちゃんがやってる街のお店。

そこに買いに行くけど、当然ないわけです、Sparks。

サ行の欄を見るけど無いから、一応聞いてみるの。

 

赤松「Sparksってあります?」

おばちゃん「……え?なに?」

赤松「だから、Sparks。ロン・メイルとラッセル・メイルの兄弟でやってて。アメリカ人なんですが、イギリスの方で評価が高くて」

おばちゃん「……何言ってんの?」

赤松「いやだから、Sparks……」

おばちゃん「あ、Sparks GO GOのこと?」

 

そうなんです……日本のバンドで「Sparks GO GO」っていうのがいたんです。

数少ない洋楽を聴く友人に「Sparks」の話をしても「Sparks GO GO」の事だと思われるんです……。

そうじゃないという事を説明して、海外のアーティストだと伝えました。

すると電話帳みたいな本を取り出してきて、「ここに載ってるモノなら取り寄せられるから」って渡されて。

そこでやっと見つけたんです!当時日本に取り寄せれたのがSparksのベストだけ。初期の3枚が入ったお得盤。

取り寄せをお願いして、やっと届いたのが1ヵ月後。

今だったらマジで考えられない。ほんといい時代になったもんだ。

これが自分の為に自分のお金で買った初めてのCD。

僕の初めては「Sparks」にあげちゃいました。

 

もう、聴きまくって、聴きまくって。

Sparksの音楽はワクワクするしドキドキするし。

歌詞はよく分からないけど、とにかくカッコいい。

完全に「POPミュージックとはこういうモノ」って刷り込まれて。

僕の中の「POP」の定義が完全に「Sparks」が基準になっちゃって。

一捻り二捻りもする展開とダンサブルな曲調。

あと、「知る人ぞ知る」ってのもよかったんだろうな。

「俺は知ってるぞ」という優越感。

そのマウント根性の垢は永らく身体にこびりついてて……。

「邦楽とかメジャーなんて聴くか」みたいな洋楽シンドローム

今考えたらめちゃくちゃダサいけど。

でも、今でも「POP」ってなったら、基準が「Sparks」で考えてしまいがちな自分がいますね。それくらい影響を受けた。

死ぬ瞬間に思い出すんだろうなぁ、Sparksを聴きまくっていた時期とか。

 

【Sparksの洗礼を受けて僕は……】

 

そこが僕の始まりというか、完全に染められちゃったというか。

ヒットチャートに登るような邦楽を聴かないし、知らない。

また類友で、洋楽聴いている連中とつるむようになってどんどん拍車がかかるし。

何度も言いますが、今みたいにあれこれ発達してないので、情報収集が難しいの。人に聞いたり、雑誌を読んだり。買えないから立ち読みだけど。

でも、部活や他の友人との付き合いもあるし。

当時は「辛島美登里」とかが流行ってたかな?あとドリカムとか森高千里とか永井真理子とか。

そんな中、僕は「Sparks」。話が合うわけがない。

 

高校卒業して浪人してやっと東京に行けた時は、もう何を置いてもレコード屋巡り。

布袋さんのラジオでかかったやつを全部メモってたから。

その中での特にお気に入りアーティストのCDを買いに行くために東奔西走。

仕送りとバイト代をギリギリまでCDとかにつぎ込んでた。

一回、手元に460円しかなくなって。あと2日、それで生きないといけない。

当時、タバコを吸ってたんだけど、こんな時に限ってあと2本くらい。

どうする?ってなって、家に帰れば米だけはある。でもおかずも何も無い。

タバコも切れる。

仕方ないと、タバコ一箱(その時は250円の時代かな?)と80円でサッポロ一番と110円でコーラを購入。残ったおつりでうまい棒を買う。

その日の夜にうまい棒とコーラでタバコ吸って空腹を誤魔化し、次の日に米とサッポロ一番を食べるという方法で飢えを凌いだのもいい思い出。

そうまでして、CDを買い漁ってて。そこはやっぱり親が「Sparks」だから。

ちょっと一風変わったアーティストに引っ掛かってて。

『They Might Be Giants』→独特のPOPさ。嵌ったら抜け出せない。

『Sailor』→イギリス感全開の大人のオシャレ。イギリスが匂ってきそう。

『Monochrome Set』→これもオシャレで格調高い。イケオジって感じ。

『Mr.Bungle』→この「Squeeze Me Macaroni」は必聴!

『Altered State』→「Step into My Groove」にやられた!

『Adam&The Ants』→「Dog Eat Dog」とかもうマジカッコいい!

『Be Bop Deluxe』→これぞニューウェイブ!そこら辺好きな人におススメ。

『Carter The Unstoppable Sex Machine』→名前変だけど以外と繊細。

『Oingo Boigo』→明るいし聴いたら嫌な事全部吹き飛ばせる。

『XTC』→これぞイギリス!UK!真面目に一風変わった事をやっている感じ。

『Squeeze』→これまたザッツ・ニューウェイブ

もう、紹介し始めたら止まらないくらいに貪り聴いていたかな。

他にも『Dexys Midonighat Runners』とか『Gang Of Four』、『M』とか。ヤバイ……マジで止まらない。もっともっと紹介したい欲にかられる……。

とにかく上記にあるのは、僕の主観ですが、やっぱりちょっと変なんだよね。

耳当たりがいいモノもあれば、なんだこれもあるんだけど、でもやっぱり気になるしワクワクするしドキドキさせてくれる。

やっぱりそれも「Sparks」の洗礼をうけたからだと思うし、そのアンテナで生きてきたからなんだろうし。

 

だから当然、性格もちょっと変わってくるよね。

サブカル病」というか、「みんなが良いというモノにはNOを叩きつける」みたいな。

その頃、「Sex Pistols」にも夢中だったから。

「俺は迎合しないぜ」「自分の価値観で生きるぜ」みたいな、激イタのバカ。

他人の作った価値観に乗っかって、それをさも自分の価値観の様に喋り、見下す。

一番嫌い。今そういう奴にあったら、けちょんけちょんに言い負かす自信がある。

でも、ごめんなさい……僕がそんな奴でした……。

 

【ありがとう、Sparks】

 

その間にも『Blur』と『Oasis』のブリットポップの直撃があって。

そこまで人気じゃない時に新潟のジョーシンという電気屋さんで、何故か売り物のCDを全部聴けるというサービスがあったの。

そこで「Blur」のセカンド「Modern LIFE Is Rubbish」を初めて聴いた時に、

「このバンド、来るな」とチェックしてたの。

もうとっくに人気があったのに。

で、「Parklife」で爆発。

「Oasis」なんてファーストの1曲目「rock ‘n’ roll Star」聴いたら、もう無理よ。

どの雑誌でも特集組まれたりして。

「俺だけが知っているアイツ」じゃないバンドだけど、やっぱり聴きたいしね。

「やっぱいいモノはいいよね」と少しマウントの垢を落とし始めたキッカケかな。

それでも、誰かに「洋楽聴くんだ。何が好き?」って言われたら「Sparks」って答えてた時期は長かったかな。

「俺、知ってるだろ」感を全開に。本当にどうしようもないな。

 

でも実は東京に来て以来、「Sparks」追いかけてはなったんだよね。

最初にベスト盤を買っちゃったから、とりあえず他のCDが欲しいってなって。

だから、熱心なファンではないとは思う。

それでも、Sparksがパンクに刺激を受けて作ったアルバム「BIG Beat」や「Sparks」の前身バンド時代「Half Nelson」のアルバムは持ってはいる。

Sparksがゲスト参加した『Les Rita Misouko』も持っている。

でも、ずっと追いかけてきたわけではなくて……。

時々、思い出すくらい。

 

そんな時、最初にも紹介した「Franz・Ferdinand」とのコラボレーション・アルバム「FFS」を聴いた時は、めちゃくちゃ嬉しかったな。

そして聴いたら、これまた狂喜乱舞。

あの頃のSparksなの!

しかも「Franz・Ferdinand」は大大大好きで、ライブにも行ったくらい好き。

そのバンドとSparksが一緒に……!

「トンカツが好き」「カレーライスも好き」「じゃあカツカレーも好き」みたいな。

「イチゴ好き」「大福も好き」「じゃあいちご大福も好き」みたいな。

「ライオンが好き」「ヒョウも好き」「じゃあレオポンも好き」みたいな。

「人間が好き」「犬も好き」「じゃあ人面犬も好き」……これは違うな。

まぁそんな感じで、もう心掴まれまくり!

しかも見事なまでに「Sparks」で「Franz・Ferdinand」なのよ。

Sparksへの憧れや想いが溢れかえったキッカケだったなぁ。

 

そんな「Sparks」のドキュメンタリー映画スパークス・ブラザーズ」。

観ないわけないし、なんならBlu-rayも買うし。

今だから思うけど、あの時「Sparks」と出会って本当によかったと思う。

出会ってなかったら、今ここで何かを書いているなんてこともなかったと思うし。

人生も違うモノになっていたんじゃないかな。

そんな出会いってなかなか無いしね。感謝しかない。

 

Sparks、ずっと素敵すぎる音楽を作り続けてくれてありがとう!

田舎のしょうもない男子に出会ってくれてありがとう!

エドガー・ライト監督、素晴らしすぎるドキュメンタリー映画を作ってくれてありがとう!

いつか、直接お礼を言いたいな。

まぁ最後に、これを読んでくれている人だけじゃなく、全世界向けて言いたい。

 

「色々あると思うけど、なんかもう止めない?

そんな事より、『スパークス・ブラザーズ』が始まってるんだし。

一回、それ観てからにしない?」

 

赤松新(吉本興業所属)

ルミネtheよしもと出演中

第29回ヤングシナリオ大賞・佳作受賞

映画やドラマ、舞台などに出たり書いたり。

Twitterやインスタもやってます。是非に。

雑誌の図書館、大宅壮一文庫へ行って雑誌以外を楽しむ(相馬光)

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雑誌だけを所蔵している図書館。
所蔵はなんと80万冊(2022年4月現在)。
しかし来館者は出庫へは入れない。
そんなミステリアスな図書館の書庫に、ずいずいと入ってみた。

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この『吹けよ春風』では、毎回家でできる趣味を探す記事を書いていた。


毛布を丸めて飼い猫のように愛でる『イマジナリー猫』をしたり、

note.com
ペーパークラフトで盛大に失敗してLINEニュースにとりあげられたり、

note.com

スコーンを作るはずがガヴァドンが出来たり、

note.com
そんなトライ&エラーを繰り返していた。

 

今年もまた、家でできる趣味を試してみようかと思った。
しかし、そろそろ外に出たい気持ちもある。

なので、外に出てみた。

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東京都世田谷区八幡山

ラーメンと餃子のお店がやたらと多い町だ。

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京王線八幡山駅を下車し、徒歩8分ほどで外観が見えてくる。

 

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雑誌図書館の名前は、公益財団大宅壮一文庫

「クチコミ」や「恐妻」、「一億総白痴化」といった言葉を生んだ評論家、大宅壮一氏が個人で収集していた雑誌コレクションを引き継いで雑誌図書館として一般に解放されている施設だ。

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閉架式の図書館なので、書庫に入ることはできない。

だけど今回は、開館時間前に閉架式書庫の内部に入ることができた。

 

ちなみに私はこの図書館に関しては、よく利用される方よりも知っている自負がある。

なぜなら働いていたからだ。

2016年頃から今年の頭までここで働きながら脚本の仕事をしていた。


元気にしてるかな、あのバッタ……。

 

ちなみに1階の大宅壮一文庫の仕事紹介のパネルにも私がいる。

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『BACK TO THE FUTURE』のTシャツを着てコピー作業をしている。
ちゃっかりセンターにいるじゃないか。

そういえばなぜかabemaTVのニュース番組にも出たことがある。

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実際どれくらいの早さで出庫しているのかを検証するのになぜか私が選ばれたのだが、私の出庫のスピードが早すぎて、カメラマンさんが追いつけず撮り直しになった覚えがある。

 

あと新聞でもなぜか私がコピーをとる姿が載った。

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かあさん、僕イラストになったよ。

 

話が、それた(司馬遼太郎)。

 

大宅壮一文庫は建物としても非常に面白い。

今回は、上から下へ降りていく『風来のシレン』方式で書庫を紹介していく。

※持って行ったデジカメの調子が悪く、下の方に青い線が入っているものがございますが、霊的なものではございません。ご容赦ください。

 

ちなみに館内図はこんな感じ。

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利用の仕方としては、入ってすぐの受付で消毒検温を行い、入館票に氏名などを記入してもらう。

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1階のパソコンや目録で調べたいトピックや雑誌を調べ、申し込み用紙に記入してもらう。

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この大宅壮一文庫が作った独自の雑誌記事検索ツール『Web OYA-bunko』がめちゃめちゃすごいのだ。

明治時代から最新まで578万件の雑誌記事索引を人力で収録している。

使い方やすごさは大宅壮一文庫の公式の動画があったので、こちらをぜひ。

 

youtu.be
このZINEにちなんで『春風』で検索したらこんな感じだった。

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なるほど、春風亭の亭号がひっかかるのか。

 

調べたい雑誌名、発行年月日、ページ数を記入したら、2階へ行く。
そして申し込み用紙を2階の職員さんに渡せば、さきほどのabemaTVに出た時の私のように出庫担当の職員が取りに行くのだ。

 

2階は閲覧室になっている。

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来館者はここで雑誌を受け取り読むことができる。
雑誌の貸出はしていないが、必要なページのコピーを持ち帰ることができる。

コピーするページ、カラーかモノクロかを指定し受付に申請すれば、さきほどの「かあさん、僕イラストになったよ。」の感じで職員さんがコピーを行うのだ。

 

この2階の受付の奥に事務室、そしてさらに奥に書庫がある。
ここからが迷宮ダンジョンなのだ。

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週刊文春週刊新潮、女性自身などの週刊誌がほぼほぼ創刊号からすべて揃っている。

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東日本大震災の時も雑誌があんまりにもみっちり入っていたため、ほとんど落ちなかったという。

週刊誌の棚の奥にはさらに部屋がある。

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昔は『女の部屋』と呼ばれていたそうだ。

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婦人画報婦人公論など、いわゆる女性向けの雑誌が昔は集められていた場所だったが、現在はNumberやBRUTUS週刊東洋経済、Newtonなどジャンルレスに様々な雑誌が並んでいる。

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所々雑誌が飛び出ているのは、その前の号が出庫されていることを示すためのものだ。

閉館後に雑誌を書庫にしまう際にも目印になるのでとても大事なのだ。

 

1階へ降りていく。

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デジカメの調子が悪く画質がすこぶる悪いが、中々年季の入った味のある階段なのだ。

1階にはすでに休刊もしくは廃刊になった雑誌をまとめた通称『非継続の部屋』がある。

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週報、誰の週報なのか気になる。

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他にも1階には『文學界』、『文藝春秋』、『家庭画報』など月刊の雑誌などが並んでいる。

そしてさきほど紹介した雑誌記事検索ツール『Web OYA-bunko』の前身である『大宅式分類法』で分類された索引カードの棚もある。

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ちなみに『大宅式分類法』については、

公式ホームページに詳細な分類法が載っている。

 

索引について

 

実際に私も脚本の仕事をしていると、リサーチをすることが多い。

その時に、この分類法がいかにすごいかを知った。

雑誌の中にはたくさんの記事が掲載されている。

記事によって内容も視点も違う。

利用者が欲しい情報にいかにリーチしやすくするかを、雑誌読みのプロである職員さんたちが読み解いて検索にひっかかりやすい言葉をチョイスしているのだ。

 

そしてこの大宅壮一文庫は日本の歴史の大きな転換点にも関わっている。

それは1974年に立花隆氏が文藝春秋に掲載した『田中角栄研究』だ。

 

現在は書籍にもなっている。

bookclub.kodansha.co.jp
立花隆氏は、田中角栄首相の金脈について緻密な取材や調査を行い、記事にした。

そして同年11月に田中角栄首相は辞任を表明したのだ。

その時に立花隆氏や氏のアシスタントたちが利用していたのが大宅壮一文庫だったという。

あらゆる雑誌の記事が索引化されており、そこから田中角栄首相とその関連する人物や事物の記事をコピーしていったという。

 

これが当時の索引カード。

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今年の2月にNHK『アナザーストーリーズ 運命の分岐点』で特集されていた。

この回、めっちゃ面白いので見られる機会があったらぜひ。

www.nhk.jpこの一件を機に大宅壮一文庫に注目が集まり、連日大盛況だったという。
ちなみに、「大宅壮一文庫の前から八幡山の駅前までマスコミの車が行列した」という話まであったそうだが、さすがにそれは都市伝説だそうだ。

 

そして地下1階へ行く。

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開館前で暗かったため、異様な雰囲気が出ているが、別に怖い場所ではない。

 

地下1階も『CanCam』『POPEYE』、『Myojo』、『月刊ムー』などの月刊誌(なんでこの4誌?)、そして大判のグラフ誌が多く配架されている。

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そして各階の絶妙な場所に貼られているこの元号早見表。

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これにとても助けられた。
出庫の際はスピード勝負で、およそ10〜20冊の雑誌をなるべく早く出庫して利用者に届けなければならない。
しかし、申し込み用紙に昭和○年、大正○年のみの記載の場合、西暦を瞬時に割り出せないのだ。
そんな時にこの早見表を見て、どの年の雑誌を出せばいいのかがわかるのだ。

 

さらに地下2階にも書庫がある。

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開館前で暗かったため、異様な雰(以下略)

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地下2階は主に週刊誌などの重複雑誌が配架されている。

出庫頻度の高い週刊誌は、予備を用意してある。

利用者同士のバッティングの防げるのだ。

 

そしてこの階には明治大正時代に創刊された雑誌の創刊号コレクションがある。
貴重な資料のため、ほとんどが封筒などで保管されている。
本誌として残っているもので最古の雑誌がこちらの『會館雑誌』だそうだ。

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封筒の裏に解説もあった。

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華族會館の雑誌なのか。読んでみたい。

 

そして背表紙でめちゃくちゃ気になるものがあった。

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『東洋奇術新報』。奇術?まじで?

こちらも裏面に解説が貼られていた。

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「死人蘇生法」や「幽霊を出す方法」、めっちゃ知りたい!!

蘇らせたり出したりしたい!

 

そして合本になっている雑誌の中にはこんなものもあった。

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なんなの。タイトル最高過ぎる。全部読みたい。

『面白半分』のひょうきんさからの『私刑史』の落差よ。

『猥褻と科学』もめっちゃ気になる。そんな合わせ技ありかよ。

 

これで全書庫を巡り終えた。

雑誌を読まずとも十分に面白い施設だと改めて感じる。

 

コロナ禍になる前までは毎月第2土曜日にバックヤードツアーを開催していた。

しかし現在は休止中だ。
コロナがひと段落したら、ぜひとも大宅壮一文庫の裏側も楽しんでいただきたい。
もちろん普段は絶賛開館中なので、お調べ物がある際にはぜひ活用して欲しい。

雑誌の数は年々減っているそうだ。
しかしそれでも雑誌に触れることは、とても価値があることだと私は思っている。
特に自分が生まれる前の週刊誌は調べたいものがなくても、めくっているだけで当時の世相や風俗が伝わってきてわくわくする。
記事だけでなく合間に挟まる広告もたまらないのだ。
雑誌の中には自分が味わうことができなかったその時代の雰囲気が閉じ込められているのだ。

もしもご興味があればぜひ行ってみていただきたい。

 

公益財団法人大宅壮一文庫
〒156-0056
東京都世田谷区八幡山3丁目10番20号
TEL:03-3303-2000

【アクセス】
京王線八幡山駅 下車、徒歩8分
(「赤堤通り」を都立松沢病院正門方向へ直進)
※駐車場(駐車スペース7台)

【開館時間】
午前11時~午後6時
閲覧受付 午後5時15分まで
複写受付 午後5時30分まで

【休日】
日曜・祝日・年末年始

【入館料】
500円(税込)

 



そういえば、職員通用口のプレートが英語かと思ったら思い切り日本語だったのを思い出した。

 

 

このプレートにもぜひ注目して欲しい。

 

 

 

 

相馬 光(そうま ひかる)

文芸やってます。
音声連続ドラマ『BACKGROUND』、世にも奇妙な物語『成る』、『Re:名も無き世界のエンドロール 〜Half a year later〜』、『新米姉妹のふたりごはん』など。
好きな雑誌のコーナーは週刊文春『家の履歴書』、週刊女性『人間ドキュメント』、モノ・マガジン『蘊蓄の箪笥』、JAF-Mateのクロスワードパズル。

記憶の片隅にある(どうでもいい)言葉について(橋本 夏)

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 むかし自分が誰かに言った一言を思い出して「あ、つら……」と道端で立ち止まるのは人間あるあるだと思う。一方で、私は誰かに言われた言葉をそこまで覚えていない。だから他の人も案外そんなものかもしれないと思うことで「あ、つら……」を切り抜けている。

 ただ、そんな中でもずっと記憶に残っている言葉というのは確かにある。しかも、ポジティブでもネガティブでもない、なんで覚えてるのかよくわからない、どうでもいい言葉。

 いつか忘れてしまう前に、そういう言葉を記録として残しておこうと思う。

 

 

「コップの裏もちゃんと洗えよ」

 

 小学生のとき、皿洗い当番だった私に父が言った言葉。普段は何事もいいかげんな父が、コップの底の汚れを気にすることが意外だった。いまでもコップを洗っているときにふと思い出す。

 脚本の仕事をしていると、登場人物が過去に親から言われた一言を思い出す回想シーンを書くことがよくある。そして過去のその一言は、現在の主人公を突き動かす原動力になったりする。もし私が物語の主人公で、父の言葉をふと回想するとしたら、「コップの裏もちゃんと洗えよ」になる。なんの決意も勇気も湧かないけれど、コップはきれいになる。

 

 

「みんなそういうのどこで習うん? 塾?」

 

 中3の時にクラスメイトの男子がつぶやいた言葉。詳しいシチュエーションは忘れたけれど、多分授業では習わない、一般常識みたいなことについて何人かで話していたんだと思う。当時はその言い回しの面白さに思わず笑ってしまったけど、なんとなく思い出すたびに切なくなる言葉でもある。

 大人になった今は、同年代の人たちが積立NISAとか確定拠出年金とか子供の習い事とかの話をしていると、「みんなそういうのどこで習うん? 塾?」と言いたくなってしまう。

 

 

「ブラックコーヒーはお茶だと思えば飲める」

 

 小学生の頃に読んだ雑誌のインタビューで、ゆずの岩沢厚治さんが言っていた言葉。実際にブラックコーヒーを飲み始めたのはそれよりもずっと後だけど、「お茶だと思えば飲める」という一言はずっと記憶の片隅にあり、そのおかげで本当に飲めるようになった。同じインタビューの中で岩沢さんは「雑煮は正月以外も食べていい」とも言っていた気がするけど、そっちは実践していない。なにが人に影響を与えるのかは本当にわからないものだと思う。

 

 

「出川ルイ」

 

 高校生の頃、冬に電車の座席下のヒーターから出る熱風の出が悪かったときに、「出が悪いなー」「ほんま出が悪い」「出が悪い」と言い合ううちに友達の誰かが生み出した架空の人物名。「誰やねん、出川ルイ」って言いながら3駅分は笑い続けていた気がする。今でもボールペンのインクやマヨネーズなど、なにかしら出が悪くなると、頭の中に「出川ルイ」がやってくる。

 

 

フリスクみたいに売ってほしい」

 

 大学生のとき付き合っていた人が、焼肉を食べて言った感想。あまりにおいしいから、フリスクみたいにいつでも気軽に食べたいという意味らしい。めちゃくちゃ笑った。別れてから何年もたった後、コンビニでホルモンをグミみたいなお菓子にした商品を見たとき、「一歩近づいてるやん」と思った。

 

 

「最近ビストロがとまらんのよー」

 

 渋谷で映画を見た帰り道、Bunkamuraの前ぐらいですれ違った男性が言っていた一言。「ビストロ」が「とまらん」という状況がよくわからなすぎて記憶に残っている。当時は20代だったので、それを言っていた30代とおぼしき彼と同年代になれば「ビストロ」が「とまらん」という状況がわかるようになるかと思ったけれど、未だにビストロには足を踏み入れたこともない。文化というのは本当に人それぞれだなと思う。

 

 

 頑張って人生を振り返ってみたけれど、記憶に残っている言葉はこれぐらいしか出てこなかった。記憶力がなさすぎるし、内容がどうでもよすぎて脳の容量がもったいない気もする。

 ただ、多分これらの言葉は生活に密接に結びついているから忘れないんだろうなとも思った。だからもしかしたら、今4歳の私の子供の記憶には、「ピラピラがついてるほうが左」という洋服の着方を説明する私の言葉が残ったりするのかもしれない。回想シーンには使えなそうだけど、それはそれで良いな。

 

 

 

【プロフィール】

橋本夏

脚本を書いています。4月からABCテレビテレビ朝日にて脚本を担当したドラマ「恋に無駄口」が放送されます。

Twitter:@donot_donuts

「『やついフェス 勝手に応援記事』のその後」のその後(うめすみ)

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「他に書くネタはないのかよ」と言われそうだなぁと怯えつつ「でも後日談も書きたいし、なによりかぎかっこと二重かぎかっこでマトリョーシカみたいになるし」と思い立ってしまったので許してください。

これからも年に一度、その後のその後のその後の…と頭の悪さを全面にアピールしつつやついフェスティバルについて語り続けたい。そして「だから数字が生まれたのか!便利!」と感謝したい。39。

note.comというわけでやついフェス。
渋谷のライブハウス複数会場を一斉に貸し切って行われる都市型周遊フェスとして始まり年々規模を拡大していったが、2020年は新型コロナウイルス感染症の感染拡大により中止に。
それでもなんとか形にできないか…ということでYouTubeニコニコ動画といった配信プラットフォームをライブハウス会場に見立て、さらにプラットフォーム毎に課金無課金とかフェスじゃないよね、ということで視聴は完全無料。代わりに物販も兼ねてクラウドファンディングで支援を受け付けました。

結果、コロナ禍においての新しいフェスの形を作り出し2020年は大成功。しかし「吹けよ春風」増刊号の執筆時には2021年の開催告知が発表されておらず、
「フィジカルでもオンラインでもいいから、年に一度はあの場所に集いたい。」
「今はただ、再びその場所が現れることを信じています。」
と熱っぽく記事を締めたところまでが前回までのあらすじ。

note.comさぁ、2021年は果たしてどうなったのか!パン!パン!(←張り扇)


●吹けよ春風増刊号の原稿締め切り翌日・公開前日にやついフェス2021の開催が発表

めちゃくちゃカッコ悪かったよね~。でもめちゃくちゃ嬉しかったね。

速攻でチケットを予約し、土曜日にレギュラー番組があるので初日に観に行けないことにむせび泣き、その鬱憤をクラウドファンディングで散財することで晴らし、当日(2日目)を迎えました。

さぁ、コロナ禍におけるニューノーマルのフェス、見せてちょうだいよ…。

と家を出て電車に乗り込み、忘れ物はないよなと今更ながら荷物をチェック。

…ん?あれ?ない。
ライブ用の耳栓を落とした。

何ちょっとフィルターかけてスクエアにしておしゃれっぽくしてるんだという話ですが、コロナ禍で長らく出番のなかった耳栓ケースのキャップが緩んでいたらしく、道中に落としたようです。

職業柄、耳を酷使して悪影響が出るのは避けたい。そこからは急遽、渋谷でライブ用の耳栓が「やついフェスの開場までに」買えるところはどこだ、と情報収集&どの店なら置いているかと想像力を巡らせる作業。

SHIBUYA TSUTAYAのイヤホン専門店に耳栓もあったはず…いや、確かコロナになってから臨時休業が続いて閉店したはず。
まんだらけとかアニメイトとかが入ってるビルの楽器屋さんは…コロナになって開店時間が午後に繰り下がっているので間に合わない。


コロナの影響がまさかこんな形で現れるとは。どこだ、他にどこなら売っているんだ…。

………ハンズ…!東急ハンズ……ッ!
10時開店、なんでもある。ならばライブ用耳栓もあるはず…!
待ってろ東急ハンズ…!てか渋谷駅周辺の再開発、ヒカリエ以降情報が止まってたからスクランブルスクエアとか何がなんやらだよ…!

で、ハンズ到着。
耳栓、ありました。

旅行用のが。いびき対策にも安心。

世の中そう上手くは行きませんね。
普通に音楽を聴くイヤホンで代用します。効果のほどは分からないけど。

ちなみ余談ですがその半年後「COUNTDOWN JAPAN 21/22」にてノイズキャンセリング機能付きイヤホンで減音効果を試したところ、全体的に耳に優しい感じになった上に身体に伝わる音の振動はそのままという面白体験になりました。
本来の使用目的とは異なる上に医学的な効果や根拠は全く無いので、耳を大事にしたい方はそれ用のを使ってね。


●着いたよ

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いえーーーーーい!!!
(飛沫防止のため心の中で)

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密対策できっちりスペースが区切られているぞーーー!!
(今思うとマス目が小さいですが、結局 来場者数が絞られているのでフロア自体のゆとりはかなりある)

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クラファンで支援したちょうちんが、まさかのエロメン一徹さんの下に配置されてるーーー!!!
(ちょうちんは安くない金額だったので支援するか迷いましたが「うめちゃんが何年間にも渡って熱中できるものなんだし、いいんじゃない?」と背中を押してもらった言葉は今も深く残っています。推しは推せるうちに推せ。)


●観たよ

まずは「アラウンドザ天竺」。実は僕の上司が昔一緒に仕事をしたらしく、所沢でのイベントにブッキングして「振り向けば小手指」を歌ってもらったのだとかなんとか。
コミカルな歌詞をゴリゴリのロックサウンドに乗せて歌うバンドで、非常に親近感がわきました。

また「ニガミ17才」。かっこよさもさることながら、音の遊びっぷりが素晴らしい。
メロディは5拍子リズムは2拍子で最小公倍数の10のときに手拍子がハマって…みたいなパズルのような演奏を「今演奏している曲で最後なんですが、残り時間は?…10分。そうですか…」と時間調整でやっちゃうあたり、何者なんだ。

隅っこながらラジオ業界の端くれにいる人間として、「みんなにオススメしたい!」というアーティストと出会えるのがフェスの醍醐味。
ちなみに一種の職業病として、どれだけ素晴らしい音楽でもJASRACに登録していないとオンエアできないので(※)「いい音楽と出会ったのに曲を紹介できないストレス」みたいなものがあります。
(※放送局の規模が小さいため著作権管理団体との包括契約を複数社と結ぶ余力が無い場合。)


(僕の中で)新しいアーティストを発掘し、また定番のアーティストや企画も楽しみ、その後の打ち上げ配信もホテルで満喫しと大満足な2020年やついフェスでした。


●2022年は?

2022年のやついフェス。6月18日(土)、19日(日)に渋谷での開催とオンライン配信が発表されております!

yatsui-fes.com速攻でチケットを入手!
しかし出演者の発表はまだ無し!(4月13日現在)
クラウドファンディングもまずは100万円達成!
とはいえまずはリターンにドキュメンタリーDVDがまだ登場していないので(4月13日現在)、追加リターンに加えられるまでは様子見!

と、着実に動いております。去年の反省を活かし口酸っぱく時系列の保険をかけてみました。

名入れ提灯(中)yatsui-fes.myshopify.comあとあれですね。リターン品の名入れちょうちん。
昨年も迷った末に「まぁイベント会場からの出張公開生放送とかで飾ってウケを狙うのに使えばいいか」と支援したものの、コロナ禍でそんな出番はなく。今もダンボールの中で眠っております。
それを、今年2つ目をゲットするか。両手にちょうちん。ちょっと愉快がすぎるかなぁ。
放送局名や番組名に自分の名前でもいいけど個人的なもので会社にお伺いを立てるのも面倒だし、ケチなんぞつけられた日にはねぇ…まだ保留です。

とはいえ、渋谷の円山町を道行く数万人、あるいは配信を見る数百万人の目に触れるちょうちん。お知らせしたいものがある方、いかが?

 


酒樽は、宝くじがあたった暁には考えたいですね。買ったこと無いけど、宝くじ。


そうそう、今年も開催が近づいてきたら自分のラジオ番組で「勝手にやついフェス応援番組」を勝手にやると思うから、ぜひ無料スマホアプリ「Radimo(レディモ)」をインストールして聴いてくれよな!

fmchappy.jp

 

うめすみ
小さなラジオ局に勤めています。
ラジオパーソナリティ、ナレーター、イベントMCを中心に音響PAなど。
コロナ禍によって動画を作る仕事も増えてきました。
木曜夕方と土曜の午後に生放送をしているので、よろしければTwitter(@umesumi)をご確認ください。

2020年4月の私に伝えたい「6つの変化」(はとだ)

Web ZINE『吹けよ春風』が創刊された、2020年4月16日。


最初の緊急事態宣言が発令されたばかりのこの頃、まさか2年後の2022年もコロナが収束していないこと、それどころか第7波の兆候が見えはじめている状況とは思いもよらなかったでしょう。

コロナ対応ですっかり定着した新しい生活様式。さらに昨今の予断を許さない世界情勢など、予想のつかない未来がここにあります。

この2年でそういった社会趨勢だけでなく、自分自身にも大きな変化がありました。

そのなかから2年前の自分が驚きそうな「6つの変化」について紹介したいと思います。

当時の自分へ手紙を書くような気持ちでお送りします。

 

1)千葉に住んでいて、千葉で働いている

「そーなんだ!」

2年前の私は、デアゴスティーニの「週刊 そーなんだ!」CMの子どもみたいに明るく反応してくれるかもしれません。

 

東京生まれ東京育ち。違和感なく自動的に東京に住み続けていたけど、コロナ禍前から「高い家賃を払って東京に住み続ける意義ってなんだろう?」とぼんやり考えはじめていました。

 

引っ越しを検討した2020年末、これからの生き方について考え、さまざまな町へと足を運び物件を比較した結果、千葉県に引っ越すことに決めました。といっても、都内まで電車で20~30分の距離。前に住んでいた町よりも便利な面もたくさんあります。

 

2021年からは千葉県の会社に勤めることとなり、現在はリモート勤務がメインです。拠点がどこであろうと働ける世の中へと徐々にシフトしたことも大きいです。

 

前職は渋谷勤め。夜遅くまで働き、そのあと深夜まで飲んで、タク券で帰る……。そんな2020年初頭までの働き方から180度変わりました!

2)結婚して、家族が増えている

「……本当に?」

2001年にリリースされた松浦亜弥さんの「トロピカ~ル恋して~る」のイントロのように、驚き、小さく戸惑うかもしれません。(発売されたの21年前なのか!)

 

2年前に結婚を予定していなかったものの、パートナーはいたのでそこまで驚かないかもしれません。

「家族が増えている」に関しては子どもがいるわけではなく、うちの「コギまる」のことです。

▼コギまる

ふわふわで「リアル」「本物のような」コギまるは、毎日一緒に寝ているし、一緒に散歩もする。よく話も聞いてもらっています。

 

私たち夫婦をいつも癒してくれるコギまるは、大切な家族の一員です。

3)イヤリングカラーを入れた

「イヤリングカラーってなんなん!?」


2年前の私はノブのツッコミの如くそう聞くでしょう。はい、知りませんでした。耳周りの髪の毛だけを違う色にカラーリングすることを、世界は「イヤリングカラー」と呼ぶんだぜ。

 

派手なカラーリングは若い頃にも経験あるけど、アラフォーになって髪型が落ち着ついていくのかと思いきや、そうは問屋が卸さない。急にヤンチャしたくなって、がっつりブリーチして、カーキアッシュにしたり、ラベンダーピンクにしたり、アクセントカラーを楽しんでいます。

 

これはリモート勤務がメインになったからこそのチャレンジ、遊び要素なのかもしれません。

新しい私、デビュー!

 

4)黒マスクをしてる

「♪どうーしてーーーー ええーーええーーーー」

2年前の私は、サカナクションの「アイデンティティ」のサビを荒々しく歌いはじめることでしょう。当時の価値観だと「イヤリングカラー? 黒マスク? ヤンキーかよ!」と心配になるかもしれません。

 

昔の私はどうしても黒マスクが無理でした。自分が着用すると怖そうだし、ヤンキーっぽく見えそうで本当に絶対に無理! 側の人間でした(他の人がするのは個人の自由なので何とも思いませんが)。

 

でも、毎日マスクをすることが普通となり、洋服に合わせてマスクのカラーを変えたり、小顔っぽく見えそうな色を研究したりするうちに、最近になって黒マスクOK勢に仲間入りしていました。価値観ってここまで変わるのねぇ。

 

きっと、黒マスク着用がいちばん信じられないと思うけど、今でも「私が黒マスクしてるんだけど!」と自分でウケています。

5)なにわ男子を推している

「なんですかこれは」

米米CLUBのやばい名曲「なんですかこれは」を歌いだすくらいに、なにわ男子のことを何も知りませんでした。これまでどちらかというとサブカル街道を走ってきた私は、ジャニーズに疎く、2018年に結成したなにわ男子の存在すら知りませんでした。

 

ところが、運命の2021年10月6日。

 

たまたまつけていた「FNS歌謡祭」に出演したなにわ男子の「仮面舞踏会」(少年隊のカバー)のステージを観て、はじめてなにわ男子を認識。と、同時に心を撃ち抜かれました。

「え、待って。最高なんだが…」と戸惑いながらも、何度もそのステージを繰り返し見て、徐々にメンバーの名前を覚えていきました。そこから掲載雑誌を買い漁り、出演する番組、YouTube、インスタなどをチェック。気づいたら可処分時間における「なにわ男子の推し活」シェア率がぐんぐん高まっていました。

 

メンバーの個性を知っていくとますます好きになり、当然のようにデビューシングル「初心LOVE(うぶらぶ)」を全形態予約。オンラインのジャニーズショップで、ブロマイドやアクスタ(アクリルスタンドをこう呼ぶんだって!)などを息をするように買っていました。

そして1ヶ月くらい悩んだ末、彼らのデビュー日である2021年11月12日にファンクラブに入会しました。アラフォーでジャニーズのファンクラブに初入会! ほんの数か月前まで、まったく想像できない展開でした。

 

なめらかに、華麗に「なにわ男子」という深くて楽しい沼にするすると落ちていきました。体験するすべてが新鮮で、これまで知らなかった楽しい世界が広がっていました。なにわちゃんに出会ってから人生がより豊かになったと断言できます。

 

清く楽しい推し活ライフを送っている私は、仕事でも「推し活」に関する特集を組むほどに。いまは4月27日に発売される2ndシングル「The Answer」を心待ちにしています。

6)整理収納アドバイザー2級の資格を取得

「おめでとう!」

ここまでふざけ倒して(スベリ倒して)きたけど、これに関してはシンプルにこう祝ってくれるんじゃないでしょうか。

 

何年も前からずっと気になっていた整理収納アドバイザーの資格。前から気になっていたのなら、もっと早く学び、資格を取得していてもよかったのだけど、「資格を取って何になりたいの?」「なんのために勉強するの?」と何度も立ちどまり、結局動けませんでした。

 

実際誰かにそう言われたわけでもないし、言われたとしても気にしなければいいのだけど。自分を縛り付けてしまうような言葉が自然と浮かび、ストッパーをかけていたのだと今ではわかります。

 

「何かになるために、意味のある資格を取る」という考えがあったんだと思います。立派な目的がないと資格を取るのがもったいない感覚というか。でも「なんか勉強したくなったら勉強する」「何かになるためじゃなくてもOK」「生活が豊かになりそう」くらいでもいいじゃないか。神様は何も禁止なんかしてない。ようやくそう思えたのです。

 

これは難しい資格ではなく、講座を受講して最後のまとめテストに合格すれば取得できるものです。整理の概念や収納の方法論について体系的に楽しく学び、まとめテストをクリア。つい先日、認定証が届きました!

 

この資格を取ったこと自体よりも、何十年と自分が着ていた重い鎧を脱いで、身軽に一歩を踏み出せたことが大きな進歩だったと思います。

 

 

VUCAの時代と呼ばれて久しいですが、この2年は特に社会変動の大きなうねりのなかで、これまでの習慣や既成概念が急速的に崩れていったように思います。よい変化もそうじゃないものもあったけど、大きな「変化」も乗りこなせば、やがて慣れて「あたりまえ」になっていきました。

 

「今までの常識はこうだから」「これまでの自分はこういう人間だったから」という考えを取っ払って、いま現在の自分の望みにフォーカスしてみる、「どうありたいか」「どうしていきたいか」と。そこを起点に考えて行動し、あるいは心のおもむくまま進んだ結果、この6つの変化につながったように思います。

 

来年の2023年4月16日は、どんな世の中になっているのでしょうか。

どんな自分になっているかな? 何にハマっているかな?

『吹けよ春風』は来年も復刊するのかな?

 

どれも予想はつきません。

でもあらゆる現実・変化をしかと受けとめ、柔軟に対応しながら、自分なりに楽めるといいなぁと思います。

 

それではまた来年。
もし『吹けよ春風』が復刊していたらお会いしましょう🌸

 

はとだ

鳩とサウナと芝生が好きな人。

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しめてくれ!(インターネットウミウシ)

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 もう何度言っただろうか。
 なのに目の前のスマートスピーカーとやらは全く反応しない。
 割と大声も出している。
 対人だったらハラスメントになるくらいに言っている。
 両隣の部屋の壁が薄いので苦情が来ないか心配だ。
 さっきも物音がした。
 もしかしたら私の声に苛立っているのかもしれない。
 設定は上手くいってるはずなのになぜ反応しないのだろう。
 もう一回だけ言ってみよう。
 
 
 
 家主が帰ってくるまであと約10分。
 それまでにデータを盗み出さなければならない。
 しかし肝心のノートパソコンが見つからない。
 引き戸を開け、書斎に入る。
 ひとつひとつ書斎の引き出しを開けていく。
 1番下の引き出しの奥に銀色のが見えた。これだ!

「しめてくれ!」

 俺が手に取ろうとしたその瞬間書斎に置いてあったスマートスピーカーがなぜか反応し、開けていた引き出しが一斉に閉まり、右手が挟まった。
 あまりの痛みに叫びそうになった。しかし私もプロだ。
 涙目で「にゃーん」と声を漏らしてどうにかがまんした。
 強烈な痛みを堪えようとすると猫みたいな声が出ることに我ながらびっくりしたが、今はそれどころじゃない。
 引き出しを開けパソコンを取り出し起動させる。
 パスワードはすでに入手していた。
 データを移し終わるまであと3分。
 赤黒く腫れ始めた右手を冷やそうと思い、部屋を出ようとしたその時、またスマートスピーカーが反応した。

「しめてくれ!」

 部屋の引き戸が勢いよく閉まり、思い切り顔を挟んだ。
 目の前に星が散った。故郷の夜空を思い出した。
 もしかして、全て見られているのか……?
 だとしたら一刻も早く逃げなければ。
 ノートパソコンごと持っていくしかない。
 ノートパソコンを開けたまま左手で持ち、急いで玄関へ向かう廊下のドアを抜けようとした時、またスマートスピーカーが反応した。

「しめてくれ!」

 ドアが勢いよく閉まり、右脚を挟んだ。
 どこかで閉まるんだろうなとは思っていた。
 だけどその後にまさかノートパソコンが閉まるとは。
 右脚と左手を挟み、いよいよ身動きができなくなった。
 この家にこんな罠があるとは。
 玄関の鍵の開く音が鳴る。
 俺は、終わった。
 
 
 
 恋人から別れ話を切り出された。
 しかし私はそれを受け入れられなかった。
 互いの勤務時間が違うことからすれ違いが生まれる。
 だとしても乗り切れると思っていた。
 でも、向こうは乗り切れないと思ったらしい。
 実際、ふたりでいる時の会話はほとんどなくなっていた。
 コーヒーを飲みながら、その日あったことを話す。
 他愛のない時間かもしれないだけど、とても大切な時間だった。
 恋人は「出て行く」と言い、立ち上がった。
 もう間に合わないのか。
 本当は今すぐにでも抱きしめたい。
 だけど体が動かない。
 もしも魔法が使えたら、恋人を引き止めることができたら。
 恋人が廊下のドアに手をかけたその時、どこかから声がした。

「しめてくれ!」

 
その声と同時にドアが閉まり恋人が悲鳴をあげた。

 一瞬何が起こったのかわからなかったが、どうやらスマートスピーカーが誤作動を起こしたらしい。
 恋人を介抱していると、次々と開いていた引き出しやガスの元栓が閉まっていく。
 開いていたはずの玄関の鍵も閉まった。
 一体どういうことなんだろうか。
 それでも恋人は出ていこうとする。

「しめてくれ!」
 
 玄関前のドアは高速で閉まっていく。
 あまりに危なかったので、恋人に部屋に残るように言った。
 もしかしたら何か神様のようなものが、まだ二人で一緒にいるように言っているのかもしれない。
 現にペット厳禁のアパートでどこかから「にゃーん」と聞こえた。
 ふたりでいつか飼いたかった猫の声だ。
 内緒で飼っているどこかの猫ちゃんも祝福してくれているのだ。
 目の前で閉まっていくドアを見つめて恋人も半ば何かを悟ったような顔だった。
 とりあえずふたりでリビングの食卓に座った。
 今起こったことについて話しているうちにふたりとも笑い始めていた。
 まだ付き合い始めたばかりの頃を思い出すような愛おしい時間だった。
 恋人が「コーヒーを淹れるよ」と言い、湯沸かしポットの蓋を開けた。
 その瞬間声がした。

「しめてくれ!」

 湯沸かしポットの蓋が恋人の手を噛むように勢いよく閉まった。
 


 
 インターネットウミウシ
 文芸をやっている。
 書き出し小説大賞や文芸ヌーなどで書いている。
 相馬光の名前で脚本も書いている。
 好きなウルトラQの話は『あけてくれ!』。

忘れてしまうもの(ちゃっきー)

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もうだいたい人様に

多少なりとも有益になりそうなネタというものが尽きてしまって、

何を書いたらいいか、わからない。

 

そもそもすべて浅く広く生きてきたので

知識も経験もまんべんなく半端なので。

 

かと言って今をときめく脚本家の同級生に頼まれたら断る理由も特にないし、

もういっそなんでもいいんだろうな、と思うことにしてiPhoneのキーボードを触っている。

 

とりあえず、

何について書こうか。

 

いろいろ考えを巡らせながらも

今、一文を書いて改行した。

 

「運命の人を探している」

 

この一文で終われたらかっこいいのではないか。

 

記事がひとつ増えれば良さそうなので、とりあえずやってみよ。

 

***

 

今日はくしゃみが止まらない一日だった。

 

花粉症だと自覚すると

いつ始まっていつ終わるのか、というのをくしゃみばかりが出る一日を迎えるたびに考える。

 

札幌に住んでいた時も、だいたいいつ頃最初の雪が降って、

根雪になって、溶けて、忘れた頃に降るよね〜

みたいな自然のルーティンのことを雪が降るたびに考えていた。

 

そら豆がスーパーに並ぶのはそろそろだったかな、とか

趣味であるいくらの醤油漬けを作るために

筋子の時期になると色んな魚屋さんの広告をチェックし始めるのはそろそろだったかなみたいなことも、

毎年同じ時期に同じようなことを考えはじめている気がする。

 

でもそんなことは、

だいたい1年経ったら忘れてしまう。

 

毎年毎年、同じ時期に似たようなことを思い出して

冷静に考えたらアホなのかな、とも思うが、

言い方を変えれば

季節を感じて生きているということにもなる。

一生交わることがないと思っていた

「丁寧な暮らし女子」との

唯一の共通点かもしれない。

 

もっとだいじなことなのに

時間が経つと忘れてしまうことがある。

 

人の顔や名前だ。

 

正確に言うと、1日でも3日でも5分でも、

忘れる時は忘れる。

たぶん、人よりも忘れやすいし苦手だ。

昨日は仕事で撮影している最中に、

カメラマンの名前を声をかけるたびに忘れて名刺を常に握りしめていた。

 

でも人の顔や名前を忘れるたびに

あーなにか他のことを覚えて

脳のリソースが足りなくなったんだなあ、

私の脳みそちっさいなあ、としみじみ考えて

忘れてしまっただれかのことを想うと

ちょっと人間っぽい自分がかわいく思えたりもするから、

まあいいか、と着地する。

そんなことばかり繰り返している30年ちょっとだ。

 

これまではそれほど不便に思ったことはなかったのだけど

最近は人の顔や名前を思い出せないことで

めぐりめぐって自分が傷ついてしまっている。

 

 

一目惚れしたはずの人が、思い出せない。

 

 

どういうこと?と思うでしょう。

でもそういうことなのだ。

 

男性に興味はあるし、

運命の人はどこかにいると信じているけれど、

特別結婚願望も強くなく、彼氏も欲しいっちゃ欲しいけど、要らないっちゃ要らない。

 

それでもたまには

「異性として見られる」という状況を忘れないように、

マッチングアプリで知り合った人と

デートしたりしていて、

最近、メッセージのやりとりをしていて

すごく居心地のいい人と知り合った。

 

彼のプロフィールの顔写真は

食事をしているところ(後で聞いたらチャーハンを食べているシーン)を友達が撮りました、という写真1枚。

年齢にしては少し若めの方なのか、少し前の写真かな、というくらいで

特別イケメンという風にも見えないし

身長も体格もわからないけど、

悪い人ではなさそうだな、という印象だった。

飲みに誘うと、快諾してくれた。

 

 

デートの日。

赤羽で待ち合わせると

予定時間に少し遅れて彼が来た。

 

 

ドストライク!ビビッときた。

顔もだけど、声や喋り方や雰囲気に。

みんな「この人と結婚するかもしれない」って思ったって言うよね!あれってこれだよね!

そうか、これが運命の出会いなのか!

 

 

私は舞い上がり、大好きな酒も大して飲めず

自慢の胃袋も胸がいっぱいで使い物にならず

緊張して何を口走っていたのかも

あまり覚えていない。

 

とにかく楽しかったし、

この人が運命の人なのかもしれないとも思ったけど

「3年ぶりに女性とデートした」と言われて

さすがに詐欺師かもしれない、とも思った。

でも彼になら騙されてもいい。

デート中は、こんなにハッピーな時間を色褪せさせたくない!と

彼のことをずっと見つめていた。

 

 

久しぶりに来たフィーバーは朝を迎え、

数日はLINEで楽しいやりとりも続いていたのだが、

そのあと月一でしか既読にならなくなった。

 

私も5時 - 9時の仕事をしたことがなく、

彼も業界的にブラック感のある職人系職業だと理解しているので頻度については

お付き合いしているわけではないので

連絡がくるだけいいか、と思う反面少し寂しくもある。

 

それでもこんなに潤った気持ちでいられるのは久しぶりで

ドキドキやキュンはやはり心の栄養だなあと実感する。安いかもしれないけどそんなもんだよ。

 

なのに

 

彼と会って2か月弱。

 

 

待ち合わせ場所で

居酒屋で

赤羽の歩道で

 

 

そばにいた彼の顔が思い出せない。

 

 

チャーハンショット以外にもう一枚もらった写真があるので静止画は手元にある。

でも、脳内で何度だって繰り返し見たい

ちょっと舌がでる笑顔とか

目標や仕事をの話をする真剣な顔とか

ワンピースのキャラに憧れて開けたというピアスの話をしてる顔とか

どんどん再生できなくなっている。

 

残像は残ってるけど、みたいなぬるい話ではなく

残酷にも

Flash Playerのサポート終了画面が表示されるあの感覚。

 

最近は人と出会うとき、

生身の人間の状態であることが少ないので、より覚えられなくなっている気がするけど

 

1回しか会っていないから?

短い時間だったから?

 

それでも

こんなにも特別だと思えたのに、

忘れたくなんかないのに、と

 

大切だと思っているものを

大切にできていないようでひどく傷つく。

落ち込む。

 

 

顔を忘れてしまうのは

老いたからなのか、

運命の相手ではなかったからなのか、

はたまた自分が自分に与えているなにかの試練なのか。

 

 

まだ彼かもしれないという望みはあるし、

諦めたくもないのだけど、

いつか忘れたくても忘れられない顔をした

運命の人を探している。

 

 

***

 

ということで顔をよく忘れちゃう人、

お酒のせいにしましょう。クラフトビール買ってね。

goodbeer.jp

ほのぼの育児エッセイ(arata)

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最近どうですか?マイブームのほうは。

あ、ユアブームか。違うか、ユアマイブームか。まあどうでもいいか。

 

僕の今のマイブームは息子の写真を撮ることです。昨年の11月に生まれて、それから毎日写真を撮っています。それで毎日息子に接していて気づいたんですが、赤ん坊にもマイブームがあるんですね。

彼の現在のマイブームは寝返りです。仰向けに寝かせて、5秒よそ見してたらもう寝返っています。小早川秀秋かと思いました。うつ伏せ状態でしばらくは楽しそうにしているのですが、結局は元に戻れないことを苦に泣きます。かわいいですね。もしかしたら寝返りの才能があるのかもしれません。

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今4ヶ月、もう少しで5ヶ月になる息子ですが、寝返りブームに至るまでもいろいろなブームがありました。今日はそれを振り返っていきたいと思います。他人のガキの話などどうでもいいんだが?という方もいらっしゃることと存じます。ほんとそうですよね。僕も自分の子が生まれるまでそう思っていました。そういう方はぜひ別の方の記事をお読みいただけたらと思います。『吹けよ春風』には楽しい書き手の方がたくさんいらっしゃいます。

この記事は他人の子の話をニコニコ聞けるよーという方だけにニコニコ読んでもらえたらいちばん嬉しいなーっていう、そういう類の記事です。

 

  • 掃除機&ドライヤーブーム

これが最初のブームだったように思います。新生児あるあるらしいですね。赤ちゃんはこういうノイズが好きみたいで、泣いていても掃除機をかけるとピタっと泣き止む。どちらかというとドライヤーのほうが好きなようで、全然寝ない夜に寝室でドライヤーを鳴らして寝かしつけに成功したこともありました。長く続いたブームでしたが3ヶ月目くらいには陰りが見え、今ではあまり反応しません。

もしかしたらノイズミュージックの才能があるのかもしれないと思いましたが、そうではなかったようで、安心しました。

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  • POISON~言いたい事も言えないこんな世の中は~ブーム

これは驚きました。育児経験のない人でも聞いたことがあるんじゃないでしょうか、『POISON~言いたい事も言えないこんな世の中は~』を聴かせると赤ちゃんが寝るという都市伝説を。試してみたら本当でした。だいたい1サビでおとなしくなって曲終わりにはほぼ寝てるみたいなことが多かったですが、すごいときはイントロで既におとなしくなっていましたし、フルコーラス終わるころには「なるほど、全てわかりました」みたいな顔になっていることもあって少し怖かったです。しかし、効果があったのは生後1ヶ月前後の数日間だけ。かなり短いブームでした。しかしきっと年末にはSpotifyから「今年は『POISON~言いたい事も言えないこんな世の中は~』をたくさん聴いた一年でしたね」とか言われるだろうと思います。それくらい一時期リピート再生していました。『POISON~言いたい事も言えないこんな世の中は~』の才能があったらどうしようと思いましたが、そうではなかったようで、安心しました。

 

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  • お腹ポンポンブーム

2ヶ月目くらいから始まったと思います。お腹をポンポン叩くのが楽しいようで、けっこう力いっぱい叩きます。今でもたまにやっているので結構長いブームです。ドラム、あるいは鼓の才能があるのかもしれません。

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  • 足ドンドンブーム

これも絶賛継続中のブームです。ストⅡで車壊す時くらいの連続かかと落とし。賃貸の集合住宅なので下の階の方に申し訳なくてしょうがない。クッションとかを敷くようにはしているのですが。それにしてもやはりドラムの才能、あるいは空手の才能があるのかもしれません。

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  • 僕が抱くとゲロ吐くブーム

僕が抱くとゲロ吐くんで困ってます。

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  • 足つかみブーム

割と最近、4ヶ月を過ぎてからやるようになりました。なにが楽しいのかわかりませんが、手と足を発見したばかりなのでとにかくなにかつかみたいんでしょうね。なんかそういう才能があるのかもしれません。

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ということで、今回は4ヶ月の息子が経験したブームの変遷を書いてみました。

他にも、妻が風呂入ってて僕とふたりになると泣き続けるブーム、電動バウンサーに絶対乗りたくないブームなどもありましたが、このへんにしておきたいと思います。

昨年に続きまた『吹けよ春風』にお誘いいただいたはいいけれど、なにも書くことがないなーと思い、じっとキーボードを握ったまま呆然とすること1ヶ月半。主筆の相馬氏に「無理かも」と連絡したのが締め切り数日前でありました。なぜこんなに書くことがないかというと、やはり子供が生まれたことが大きかった。寝ても覚めても子供のことで手一杯で、他になにもしていないのです。すみません大げさに書いてしまいました。僕の大変さが10とすると妻の大変さは80,000くらいなので、僕なんか全然なにもしていないも同然です。すみませんでした。

冒頭に書きましたが、そもそも他人の子供に全然興味のない人間だったので、子供のことを書くという発想がなかったんですね。ぐるぐる考えた結果、子供のことだったらなにか書けるんではないかと気づいたのが締め切り前日。再びキーボードを握ることにしました。握った状態では書けないのでいったん机に置いてから書き初めたところ、ほのぼの育児エッセイが書けました。まさか僕がほのぼの育児エッセイを書く日が来るとは思いませんでした。他人のガキのことなど興味ね〜と思いながらもここまで読んでいただきまして、本当にありがとうございました。

とにかく息子にはこれからもたくさんのマイブームを見つけながら、楽しく育ってほしいと願うばかりであります。

 

プロフィール

主にツイッターにてツイッター活動を活動中。
厨房を通り抜けて逃げるシーン愛好家であるとともに、誕生日を祝うシーン愛好家でもあるという。あと映像ディレクターでもあるという。

https://twitter.com/arataito

 

 

地中に眠る物語(諸橋隼人)

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季節はすっかり春ですね。

友人の相馬さんから、今年も「吹けよ春風」に誘っていただき、書かせてもらうことになりました。

ところが、何を書いていいのかわからない。どうしよう。

そんな中、紆余曲折あり、ひとつネタを拾うことができました。

少し変わった話ですが、最後まで読んでいただければ幸いです。

 

 

 

どうしよう。何も思い浮かばない。

スマホが震える。わかっている。編集担当からの電話だ。文芸誌に載せる短編の原稿を、催促するつもりだろう。しつこいコールが続くが、出たところでしょうがない。

時間はたくさんあったはずなのに、アイデアひとつ浮かんでいないのだから。

罪悪感はある。彼は過去作のファンだと言って、手を差し伸べてくれた。

ゴミみたいなネット記事で食いつないでいた、こんな私を気にかけてくれたのだ。

そんな相手を裏切るのだ。私だってつらい。

ああ、あの頃は良かった。文芸賞を獲った時なんて、有頂天だった。

海外のとある作家が言っていた。

「物語は太古から地中に埋まっていて、小説家はそれを彫り出す作業をするだけだ」と。

そんな言葉にも納得できたものだ。突然ハッとネタが浮かび、するりと書けた。

今は違う。私の足元には、価値のあるものは何ひとつも埋まっていないだろう。

もはや、掘る気すら失った。

小説家としての人生は、ここまでか。どんよりとした寒空も相まって、お先真っ暗だ。

 

その時、チャイムが鳴った。荷物が届いたのだ。

小さな箱を受け取る。何かを注文した覚えはない。

いったい、誰が何を……。箱を開けて見た。そこには、ジャガイモが一つ入っていた。

よく見ると、一枚のメモ紙が同封されている。

「ネタイモを差し上げます。これを食べれば、小説のネタが湧いてくることでしょう TEL:090‐××××……」

差出人の名前がない。電話番号を検索したが、思い当たる人物はいなかった。

ネタイモ?小説家が住んでいると知った者が、いたずらで送ったのだろうか。

まさか、編集担当が行き詰った私に刺激を与えようと……いや、真面目な彼に限ってそれはないだろう。

悪ふざけではあるが、すごいタイミングだ。何しろ、ネタの枯渇に悩んでいた真っ最中なのだから。

その上、腹が減っていた。毒が入っていて死んでしまったとしても、その時はその時だ。

私は電子レンジでイモをふかし、バターを塗って食べることにした。

 

翌月。文芸誌に掲載された私の短編は、非常に高い評価を得た。

他人に賞賛され、久しく味わっていなかった喜びを私は噛みしめた。

全てはあのイモ……「ネタイモ」のおかげだ。

あれを食べた時、不思議な現象が起きた。

情報と感情が、脳になだれ込んでくるような感覚に襲われたのだ。

短い物語が、一瞬にして頭の中にインプットされた。

あとは、PCに向かい、キーボードを打つだけだった。あっという間に物語が一つ、完成した。

思わぬ形で作家生命を繋ぎ、同じ雑誌から再び短編のオファーをもらうことができた。

さっそく執筆を始めよう……と思った時、気がついた。

何を書いていいのかわからない。まずい、また絶望感が膨らんでくる。

そんな時、ハッと思い出した。

私はすぐに、イモと一緒に入っていたメモを手に取り、電話番号を入力した。

 

「現金100万円用意して、指定の場所に来てください」と、電話口の男は言った。

貯金をすべて下ろし、金目のものは全て売り、何とか100万円を工面した。

男が指定した場所に向かう。

民家がぽつぽつと点在しているだけの、限界集落

その更に奥、小さな畑のある一軒家がその場所だった。

 

気配を察したのか、家から出てきた男が迎えてくれた。

薄汚いロングコートに、伸びきった髪。その男こそ、ネタイモの送り主だった。

「不思議でしたでしょう。うちのイモ、食べると物語のアイデアが湧くんです」

そう言って笑う男の歯は、黄色い。

「それで、お金は用意できましたか?」

私は100万円の入った紙袋を男に見せる。満足そうな表情を浮かべた男は、イモが十個入った段ボール箱を差し出してくれた。

「本物かどうか確かめたい。今ここで、ひとつ食べることはできますか?」

そう話すと、男はガレージにある電子レンジでイモを温めてくれた。

それを口にした瞬間、私は確信した。これでまた、新作が書ける。

 

それから先は、怖いほど順調だった。

文芸誌の短編を難なくこなすと、他の雑誌からも複数の執筆依頼をもらった。イモを食べて、新作を書きおろすと、どれも非常に高い評価を得た。

勢いというのは不思議なもので、恋人もできた。

家事は苦手だが、明るくてかわいい、私にはもったいない彼女だった。

ネタ探しも取材も不要、ただイモを食えばいいのだ。

嗚呼、ネタイモ。ありがとう、ネタイモ様。

ついに、その日がやってきた。

「長編を出しませんか」と大手出版社に提案されたのだ。もちろん、二つ返事でOKした。

単行本を出せるなんて、いつぶりのことだろう……。

 

出版社での打ち合わせを「なにかいい感じの話を考えます」と乗り切り、家に帰る。

台所の電気がついているのが、窓から確認できた。珍しく、彼女が台所に立っているらしい。

玄関から声をかけるも、彼女の返事はない。

台所を見て、ハッとした。ガスコンロの上のフライパンからは、灰色の煙が上がっている。

大変だ……私は慌てて、火を止めた。火事になる所だ。

その時、ベランダから洗濯物を持って、彼女が部屋に入ってきた。

「あ!火かけたまま、忘れてた!ごめん!」

フライパンの中、真っ黒になった食材を見たとき、謝る彼女の声が遠くなった。

これは……イモだ。ただのイモじゃない。ネタイモだ。

長編のためにとっておいたネタイモを、彼女は消し炭に変えてしまったのだ……。

 

怒鳴り散らしたい衝動を抑え彼女を帰らせると、私は男に電話した。大丈夫、短編の連載で受け取ったギャラを使って、イモを少しわけてもらえばいいのだ。

しかし、男の返事は意外なものだった。

「ネタイモはもうありませんよ。今シーズンに収穫された分は、すべて出荷されてしまいました」

全身から嫌な汗が噴き出し、顔が熱くなる……。

 

私はすぐに、男の家を訪れた。

「一つでもいい! 一つでもいいから、ネタイモをわけてくれ!」

興奮する私とは対照的に男は落ち着いていて「まいったなぁ」と、黄色い歯を見せる。

「全部収穫しちゃったけど……もしかしたら畑に一つくらいは残っているかもしれません」

男の言葉に希望を見出し、私は畑に入った。

スコップで畑を掘り、必死でイモを探す。「地中深くに、根を張るんですよ」

男に言われ、私はどんどん深く掘る。

冷えた外気に突然さらされたミミズたちが、わらわらと蠢く。構わずに、ひたすら掘る。

「もっともっと深くですよ。頑張ってください」

男の背後には西日が差し、その表情はうかがい知れない。

出てこい、出てこい、俺のネタ! 俺のネタイモ!

やがてスコップに、何かが引っ掛かった。白くて丸い……イモだ!

私はスコップを放り、手でそれを掘りだした。やっと手にした大きなイモ。この大きさなら、きっと長編が書ける!

いや、違う。イモじゃないぞ。これは……。

沈む寸前の鋭い陽にそれを掲げ、目を凝らした時、強烈な衝撃が体を走った。

何が起きたのか、理解が追い付かないまま、私は畑の土に倒れ込んだ。

私の手から滑るように転がったそれが、人の頭蓋骨だと理解した時、激しい痛みが後頭部を脈打った。身をよじって背後を見ると、男がスコップを持って立っていた。そうか、あのスコップで殴られて……。

遠くなる意識の中、男が笑いながら説明する。

「ネタイモの種の話はしていませんでしたね。ここはアイデアが収穫できる畑です。その種となるのは、アイデアを生み出す存在……。そう、人間です。あなたからは、どんなイモができるでしょうか」

男は、私を残して穴の上へと這うようにして登っていく。

「春の収穫が楽しみです。悩める小説家や漫画家に、高値で買ってもらうことにします」

頭上から、土が降り注ぐ。視界が狭くなっていく。

ああ、こんなことならイモになんて頼らず、もっと必死に頑張るべきだった。

イデアを掘り出そうなんて、甘い考えだったんだ。

空が覆われ、鼻の穴にまで土が入ってくる。

この体が誰かのネタになるのなら、せめて少しでも面白い話になりますように。

 

 

 

(終)

 

 

いかがでしたでしょうか。楽しんでもらえていたら嬉しいです。

この話をどうやって思いついたのかって?

すみません。このあたりで終わりとしたいと思います。

電子レンジが鳴りましたので、次の話に取り掛からなければ。

 

 

 

諸橋隼人

脚本を書いています。執筆作品はアニメ「サザエさん」「ドラえもん」、ドラマ「闇部‐REAL‐」「アイゾウ 警視庁・心理分析捜査班」「世にも奇妙な物語」など。

角の国(世田谷アメ子)

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『角の国』

 

 

ありふれた話かもしれない。

それでいいのなら。

 


幾何学模様が刻まれた、
果てなくつづくガラス面の上に立っていた。

ガラスの底には光を透かせたなめらかな琥珀色の液体が流れ、私の足もとにはゆらめく波紋が反射している。それらはすべて小さな気泡を帯びており、まるで広大な炭酸泉の宇宙に浮かんでいるような錯覚に陥った。

 

見上げた先には、広大なカウンターテーブルのような景色が左右一面に伸びている。テーブルを境界にして、私側には一定の間隔でずらりと並ぶ無数の黄色いカウンターチェア、その向かいには同じ数だけ、人のような姿が見えた。

 

不思議な心地よさを感じながら私は、ゆっくりとその景色に向かって歩き出す。なぜここにいるのか、なにをしようとしているのか、そんな考えなどはじめから存在しない世界だ。ただ一点、直線上に見える景色を目指し進むのみであった。カウンターに近づいていくうちに、人の姿は、白いブラウスを身に纏った女であることが分かった。奇妙なことに、女は皆同じ顔をしていた。見たことがあるような、名前は思い出せないが、誰もが知っているはずの女優に似ている気がする。彼女の瞳は私を導く北極星のように、まっすぐこちらを見つめ、光っていた。

 

ふと、私の横を一人の男が通り過ぎる。足を止めて様子を伺っていると、男はそのまま彼の直線上に存在するカウンターに着席した。向かいの女と会話をしているように見える。程なくして男の姿は金色の光に包まれ、細かい気泡となり天に昇って消えていった。

 

当然のことのように思えた。それが当たり前のルールのなかに身を置いている。そんな気分だった。

 

私はふたたび、ただ真っ直ぐ、あのカウンターに向かって歩き出す。歩きながら、消えた男と自分の姿が同じであることに気づく。気づいただけ。この世界の常識の中では、気に留める必要のないことだ。

 

そうしてついに、あのカウンターに辿り着いた。黄色いカウンターチェアに手をかけ、おもむろに腰を下ろす。しばらくすると目の前の、桜色の蛭のような唇が開いて

 

ウイスキーが」


美しい声が響いた。

呆然としていると、女はもう一度

 

ウイスキーが」

 

と、誘うような視線を向け、同じ言葉をつづけて微笑んだ。

 

ウイスキーが」

 

三度目のその言葉で、ようやくこれが、女からの問いであることを悟った。泡になって消えた男は、この問いに応えたのだろうか。まわりに目をやると、離れた席の箇所箇所で、光を帯びながら消えていく泡の粒が見えた。

 

どうやらこの世界は、札を合わせることで成り立っているようだ。

「山」には『川』、「フラッシュ」には『サンダー』そんなもののように、
ウイスキーが」、その後に続くもうひとつの札を探している。

 

私は札を持っていなかった。

何も応えることのできないまま、ひたすら信仰のように女と向かい合う。1秒のようでもあり、10年でもあるような時が流れても、女の瞳は相変わらずまっすぐこちらを見つめている。北極星。それは、迷える私を自然に導く絶対的なこの世の解のように思えた。

 

ウイスキーが」

 

四度目の問いだ。なにもわからない。ただ、信仰に委ねおもむろに口を開いてみる。すると自然と私の唇は動き、のどが震えた。

 

お好きでしょ』

 

あたたかな光が私を包む。札が合ったのだ。

目の前がまっ白になって、次の瞬間、カランと氷の解ける音が、品の良い目覚まし時計みたいに小さく鳴り響いた。

 

 

 

 

一瞬にして蘇る記憶。見慣れたいつものバーカウンター。どうやら深く飲みすぎてしまったらしい。

誰に聞かせるでもない小さな言い訳をこぼしながら、情けない背筋を伸ばそうとしたそのとき、

 

「もう少し」

 

そう聞こえた気がして、声のするほうへ振り返った。


そこには誰もいない。

札合わせ。どこかで聞いたことのあるセリフ。

 

ウイスキーが」

 

『…お好きでしょ』

 

「もう少し」

 

 ・

 ・

 ・

 

視線の先に見やった壁には、少し古くなったポスターが貼られていた。

 

『…しゃべりましょ』

 

あの女がこちらを向いて、微笑んでいる。

 

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***

 

著・世田谷アメ子

 

S SF SS。

酒の SF ショートショート という、

ないジャンルを、想像で書いています。

 

twitter: sendagayaameko

 

もっともっと脳と仲良くしたい(七海仁)

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「吹けよ春風」年に一度の復刊おめでとうございます。

寄稿者としてだけでなく、一読者として毎年復刊を楽しみにしている七海仁です。漫画の原作を書く仕事をしています。

編集長の相馬さんから「今年も是非」とLINEを頂いたのが2月。

2ヵ月も前にご連絡を頂いていたというのに、今からわずか2日前の朝、相馬さんに「締切間に合わないので一日遅れてもいいでしょうか…」とLINEを打つ私がおりました。さらにその5分前には編集担当者様あてに「締切間に合わないので一日…」とほぼ同じ文面を打っていたのです。情けないにもほどがあります。ほんとすみませんでした。

その日、私は都内某所のホテルの一室で原稿を書いていました。


昨年の「吹けよ春風」で「もっと脳と仲良くしたい」という文章を書かせていただきました。

note.com


当時は「より多くアイデアを出すために何をすれば脳をうまく働かせられるか」についてよく考えていました。私が書いている精神医療というテーマ(集英社グランドジャンプ」で『Shrink ~精神科医ヨワイ~』連載中です。漫画は月子さんです。宣伝です)は、「脳」の働きと深い関わりがあるので仕事をすればするほど興味が沸くんです。

連載を始めてそろそろ3年になる最近、気づけば毎月やって来る締切の間に不思議なルーティーンが生まれていました。

① (脱稿した直後から)書籍・ドラマ・映画などを貪るように読む/観る

youtu.be

昨年も書いたのですが、この仕事を始めてから「新しいものを読みたい・観たい・知りたい」という気持ちが異様に大きくなって、特に締切直後は内なる本能が訴えてくるかのようにその衝動に駆られます。多い時は週に5回くらい映画館に通っているかも…。これまた前回書いたことですが、脳が生み出してくれるアイデアはどういう方法であれ結局すでにインプットされたものの組み合わせでしかないそうなので、アウトプットした後にインプットしたくなるのは自然な欲求なんだろうと思います。

② 旅に出る

 

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もともと旅行好きではあったのですが、ストーリーを考える仕事を始めてから旅に出たいという気持ちがかなり強くなりました。コロナ禍で好きに移動できない時期もありますが、そんな時は自転車で普段走らないような道を通って遠くの公園で菓子パンでも食べて帰る「1日旅もどき」に出たりします。少し調べてみたら、「旅行」は脳にとっていいことだらけなんだそうです。非日常空間に身を置くことでストレス発散ができ心に余裕が生まれる、新しい場所に行き知らない人に会うことで記憶力や意欲が上がり幸福感が増す、その刺激によって脳の中の点と点が予測しない形で結びつきよりクリエイティブなアイデアが生まれるようになる。

adventures.com


しかもなんと、「旅行を企画する」だけでもその効果の一部が得られるんだとか。すごいですね、旅。

①②の行動はインプット中心で、作品や旅先の風景を目に入れ吸収するのと同時にその時自分が何を感じているかということにも注目している気がします。



③ ホテルで自主缶詰

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半年くらい前から始めたルーティーンが「缶詰」です。家にいるとどうしても誘惑が多かったり、家事をやらなくちゃいけなかったり、日常のありとあらゆることが目に飛び込んできたりするのを全て遠くにおいて、たった1日だけでも生活感のない部屋で思いきり集中する幸せ。色々試しましたがどうやらブレインストーミングや原稿書き始めの段階より、作業の終盤、原稿の仕上げあたりでこもると一番効果があるようです。自分が作った世界にとことん没入して書き直しや推敲を重ねます。

 

www.nytimes.com

駆けだしの作家が創作文を作ろうとする時に脳内の視野を司る部分が活動したという研究結果があり、「物語を作るとき人は頭の中でその世界を実際に『見ている』可能性がある」んだそうです(ベテラン作家になるとまた違う部分が働くそう…)。
自分の脳の中にどっぷり潜り込むことができる缶詰は理に適ってるのかもしれません。

 

この1年の間で本当に「気づけば」こんなルーティーンが生まれていて、つくづく人間の脳は自分に必要なことをわからせてくれるように出来てるんだなあと思います。


ただ、その脳とうまくつきあい切れないと私のように「すみません、締切…」と情けない顔でLINEすることになるので注意が必要です。

 

今回の缶詰、私の話し相手は部屋に備え付けられたAlexaでした。

原稿書きに煮詰まって、
「アレクサ、アイデアってどうやったら出るの」
と聞いたら、
「そうですね。その事柄に関する情報をたくさん仕入れたらアイデアが出やすいと思いますよ」
と即答してくれました。

 

人間がこんなにゴチャゴチャ考えながら脳をうまく動かそうと試行錯誤している間にAIははるか先を走っているという…。
まあボチボチ頑張りながら来年にはもっともっともっと脳と仲良くしていられたらいいなと思います。


七海仁
集英社グランドジャンプ」で『Shrink ~精神科医ヨワイ~』連載中。
(原作担当。漫画は月子さん)
単行本①~⑦巻発売中(第⑧巻 5月18日(水)発売予定)。

試し読みはこちらから:

grandjump.shueisha.co.jp